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インタビュー

馬の骨

キリンジの10周年も一段落し、久々のソロ・プロジェクトで本領を発揮した新作。素材を活かした泣きのサウンドが胸に沁みる……

  「ファーストの時はアルバムとして形にするのが精一杯だったんで、今回はもうちょっと作品としての空気感というか、全体的なものをコントロールしたいなと思って。デモの段階からいくつかの曲でハーモニカやアコーディオンが音のイメージとして出てきたから、じゃあこっちの曲でもハーモニカを入れてみようとか、アコーディオンでアンサンブルを作ってみようとか、いろんな曲調の楽曲をまとめるために、そういうことも意識しましたね。歌詞に関しても、すでに一枚出してるわけだからちょっと目先を変えて。自分の気分とか感情が元になっているところは変わってないんですけど、例えばチューインガムに歌わせたり(“Chewing Gum On The Street”)、道化師に歌わせたり(“遠い季節”)っていう狂言回しみたいなこともやってますね。ソロだからといってあんまり〈自分は、自分は〉ってなっちゃうのは良くないし、やっぱり楽しんで聴いてもらったほうが良いなと」。

 キリンジの堀込泰行によるソロ・プロジェクト=馬の骨、4年ぶりのセカンド・アルバム『River』。バンド・サウンドに寄った初作同様、そこには当然ながらキリンジと違う音が鳴っているのだが、冒頭の発言からも窺えるように、本作には全体を覆うひとつの〈匂い〉がある。ハーモニカやアコーディオンといった楽器が頻繁にフィーチャーされていることもあってか、それは〈ノスタルジー〉という言葉でも形容できる温かみ、人肌感とでも言えそうだ。

 「確かに、タイトル曲は10代の頃にヘッドフォンで音楽を聴きながら歩いてた、地元の川の風景がインスピレーションの元になってたりするし、ファーストの時は〈街の中で聴ける土臭い音〉みたいなことを頭の隅でイメージしてたんですけど、今回は僕の地元――田舎で聴いても気持ち良い感じ、あまり都市っぽくないものを意識したところはあって。アコーディオンが入ってる“だれかの詩”はジプシー音楽っぽいアレンジになってますけど、ジプシー音楽って独特の郷愁というか、〈泣き〉みたいなのがあるじゃないですか。自分が好きな音楽、例えばアメリカのルーツ・ミュージックにしてもわりと泣きが入ってるもの、郷愁を誘うようなものに惹かれる傾向があるなって、この曲を作った時にふと思ったんですよね」。

 とはいえ、ここにある楽曲たちは、ただただノスタルジックにコーティングされたものというわけではない。気心の知れたミュージシャンたちとのセッションをベースに編まれ、強烈なフック一発で聴き手の胸を打つような派手な類いのものというより、曲の頭から終わりまで適度な昂揚感が持続する――ディテールはそのものズバリではないが、世紀の名盤、ビーチ・ボーイズ『Pet Sounds』にも通じる佇まいが……。

 「そう……ですかね(笑)。でもまあ、格好良いサビがひとつあったら、その他の部分も格好良くしなきゃいけないっていうか。サビだけ良くて他はあんまり良くないっていうのも世の中にはたくさんあるから、極端に言っちゃえばそこのわかりやすさだけで持たせる音楽じゃないものにしようと思ったんですよね。ビートを強くしたり、音が立つようにしていけばそれで立派なポップスになったりはすると思うんですけど、そういうことでもなく、余計なものを剥ぎ取っていっても美しいものというか……。よく、アコギ一本の伴奏だけでも良いものは良いって言うじゃないですか。そういうことを今回は考えてましたね。最近は自分がデビューする前によく聴いてたような音楽を、もう一回聴き返してたりしてたんですよ。例えばフェアーグラウンド・アトラクションとかロジャ-・ニコルスとかを聴きながら、ただ演奏しているだけでこんなに綺麗なものが出来るのは凄いなあって。じゃあ僕も曲を丁寧に作って、ただ演奏をしているだけのアルバムを作ろうと思ったんですよね。音のコーティングもすごく大事だと思うんですけど、〈曲〉っていうフォーマットを取ってる以上、それ自体が良くないとしょうがないんじゃない?って」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年10月21日 18:00

ソース: 『bounce』 315号(2009/10/25)

文/久保田 泰平

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