インタビュー

多和田えみ

音楽とは聴くのではなく感じるものだ、と実感させる彼女の歌声。愛と魂が込められた〈ソウル・ミュージック〉に胸の奥が震えます!


  ある時は凛とした歌声で聴く者を奮い立たせ、ある時はとろけるような甘い歌声で包み込む。まるで魔法に掛けられたかのように夢中にさせる、その神秘的な歌声の持ち主は多和田えみ。約2年前に沖縄から上京し、以降ミニ・アルバムなどリリースを重ねてきた彼女が、初のフル・アルバムを完成させた。タイトルはズバリ――『SINGS』。

「音楽は私のなかですごく大きな存在であり、歌うことは私の人生にとって大切な命綱のようなもの。それをシンプルに、ありのままにタイトルにしたいと思って〈SINGS〉にしました。多和田えみというひとりのシンガーとして、〈(すべてを)歌に託す〉という意味を込めて」。

 彼女の歌の根底にあるのはソウル・ミュージックだ。しかしそれは「魂に響く音楽を届けたいという思いでこれまで歌ってきました」と語る通り、ジャンルにおいての話に限らない。今作のコンセプトも「常に自分のなかでの大きなテーマである〈私なりのソウル・ミュージック〉を詰め込むこと」だったそうで、いわば多和田えみ流の〈魂の歌〉が提示されていることになる。例えば、心のさざなみをそっと鎮めてくれるような穏やかなバラード“月のうた”。

「これは、大切な親友を亡くした私の友人に贈ろうと思って書いたリリックです。本当は悲しいのに一生懸命、気丈に振る舞うその友人に対して、いったいどんな言葉をかけて良いのかわからなくて……。言いたいことはたくさんあるのに、口では何も言っちゃいけないような気もしたんです。だから、その時自分がいちばん贈りたかった言葉をここに綴りました。大切な存在を失う時は誰にでも訪れるもので、それもやっぱり宇宙の法則なんだって受け入れる心というか。この歌がひとりでも多くの人のパワーになれたらと祈っています」。

 そんなふうに、ジワジワと心の襞に染み込む歌もあれば、まるで親友のように寄り添う親近感たっぷりな歌もある。それが、乙女心がスウィングするようなポップ・チューン“愛音色”。

「失恋した時の気持ちを書きました。恋愛中に相手といっしょに聴いた音楽って、その音楽を聴くたびに忘れられない思い出とか匂いとか感触とかが、そのまま蘇ってきてしまうんです。2人の間にはいつも音楽があったのに、どっちかの気持ちが離れた時、気持ちといっしょに〈あれ? あの音楽がどっか行っちゃった〉って切なくなるような……。きっと女子ならわかってくれると思うんですが(笑)。タイトルはそんな乙女心を表現してみました」。

 もちろん〈これぞ!〉なソウル・ナンバーも。デビュー前から活動を共にするバンド=The Soul Infinityとギラギラに仕上げたスライ&ザ・ファミリー・ストーン“Dance To The Music”、スリー・ドッグ・ナイト“Joy To The World”のカヴァーだ。

「きっかけは“Joy To The World”をCM曲として歌わせていただいたことでした。その後ライヴでやると盛り上がるかしらと思って、実際にバンドのみんなとやりはじめたんです。回を重ねるごとにどんどんアイデアも出てきて、“Dance To The Music”とくっつけて、もっとソウルなアレンジにしよう!ということで、最終的には2曲をミックスした仕上がりになりました」。

 アルバムのラストを飾るのは、愛を高らかに歌う“One Love”。囁きかけるような歌声からゴスペル調のダイナミックな唱法へと展開するヴォーカルが、何とも胸を打つナンバーだ。「愛する人と触れ合って感じ合える、そのことがどんなに奇跡的なことか。この曲を歌っていて、本当に実感します」と彼女は言う。う~ん、そうした豊かな感受性があるからこそ、彼女の歌にはソウルが宿るのだろう。

「やっぱり歌は愛と魂! 今回それを再確認しました」――いやはや聴いているこちらも同感。『SINGS』は、心を思い切り抱き締められたような愛と魂のアルバムなのだ。

▼『SINGS』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年11月04日 18:00

ソース: 『bounce』 315号(2009/10/25)

文/岡部 徳枝

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