KID SISTER
本誌の特集シリーズ〈NEW BLOODS〉の第3回に登場したA・トラックが全面的にバックアップする最注目フィメール・ラッパー、キッド・シスター。度重なる延期を経てようやく届けられた彼女のファースト・アルバム『Ultraviolet』は、まさに新しいダンス・ミュージック・ムーヴメントのシンボルになるような作品だ。
「このアルバムでは、新しいジャンルを決定付けるような作品をめざしてた。誰も試したことがないような音楽でね。例えば、ヒップホップのメジャー・アーティストが思いっきりダンサブルな曲でラップしてるのってあんまりないでしょ? だからそれをめざしてる。そういうサウンド、そういうジャンルにちゃんと顔を付けてやろうとしてるの。〈こんなサウンドを聴きたいならこのアルバムを聴けばいい〉って言えるようなものね」。
アルバムのプロダクションを担うのは、A・トラック、XXXチェンジ(スパンク・ロック)、スティーヴ・アンジェロ&セバスチャン・イングロッソ(スウェディッシュ・ハウス・マフィア)、ユクセク、ハーヴ、ラスコ、ブライアン・ケネディ、DJガン・マンなど。ヒップホップからBモア、ハウス、フィジェット、フレンチ・エレクトロ、ダブ・ステップ、アーバン・ポップまで、各方面の精鋭がズラリと顔を揃えた内容は〈NEW BLOODS〉のサウンドトラックとして打ってつけだろう。
「サウンドの面ではね、自分がお尻を振りたくなるようなビートを選んだの。私は勘がいいほうだと思ってる。ポップ・カルチャーに対する勘ね。例えば、どんなサウンドがいいかとか。頭で考えるんじゃなく、感性の面でそれがわかっちゃう。なかなかいい直感してると思うのよね。だからどのビートにしようかって選ぶ時も、感覚を優先させてるわ。いまは何が人気なんだろう?とか考えずにね。頭よりもハートで選んでるわ」。
アルバムではカニエ・ウェストやエステル、シー・ロー、トラッカデミックスらとのコラボも楽しめるが、それ以上に注目してほしいのはキッド・シスターの粋なセンスが垣間見られる2曲のカヴァー・ソング。ひとつは同郷シカゴのゲットー・ハウス・マスター=DJディーオンの“Let Me Bang”、そしてもうひとつはステイタスIVのガラージ・クラシック“You Ain't Really Down”だ。
「シカゴってハウスで有名な街でしょ? だから、昔はそういう曲をラジオやクラブでよく聴いてた。“You Ain't Really Down”は高校生の頃から大好きだった曲で、私みたいな女性がリメイクするとおもしろいかも、って思ったの。だって、もともとは男たちの曲だからね。最初はスキットにするつもりだったんだけど、やってるうちに本気になってきちゃった(笑)」。
オールド・スクールから脈々と受け継がれるフィメール・ラッパー特有の気っ風の良さと、リリー・アレンやケイティ・ペリーともリンクするイマドキなガール・パワーを併せ持つキッド・シスター。ダンス・サウンドのカッティング・エッジをメインストリームに持ち込もうとする彼女に寄せられる期待は、途轍もなく大きい。
「昔の女性ラッパーよりも、最近の女性ラッパーのほうが素敵だと思うわ。もちろんソルトン・ペパだって大好きよ。だけど、昔ってハードコアな女性ラッパーっていたじゃない? 〈用心しないとあんたを刺しちゃうわよ、ビッチ!〉とかラップしてる人。そういうのを聴くと、私は〈ちょっと~! どうしてそんなに意地悪なの~!〉って思っちゃうの。そこまで挑発的にならなきゃいけないかな?ってね。とにかく、ハードすぎるラッパーはあまり好みじゃないわ。あと、最近の女性ミュージシャンたちはラッパーに限らずみんな素敵だと思う。サンティゴールドもM.I.A.も、それからケイティ・ペリーも最高! いまのゲームにおいてはただ女性アーティストであること自体が素敵よね。改めて女に生まれて良かったと思うわ。いまの気分は〈いっしょに行くよ、ガール!〉みたいな感じね!」。
PROFILE/キッド・シスター
80年生まれ、イリノイ州マーカス出身のラッパー。シカゴで育ち、2005年にラップを始める。MTVの番組出演をきっかけにしてA・トラックに見い出され、彼の主宰するフールズ・ゴールドと契約。2007年に“Control”でデビューを果たすと、翌年にかけてクローメオやカウント&シンデン、ティッツワース、スティーヴ・アオキらの楽曲に客演して名を広めていく。2008年にはカニエ・ウェストを迎えたシングル“Pro Nails”をヒットさせるが、予定されていたアルバム『Dream Date』はお蔵入りに。今年に入ってシングル“Right Hand Hi”を発表。〈サマソニ〉での来日を経て、ファースト・アルバム『Ultraviolet』(Fool's Gold/Downtown/Asylum UK/ワーナー)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2009年11月18日 18:00
更新: 2009年11月18日 18:08
ソース: 『bounce』 316号(2009/11/25)
文/高橋 芳朗