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インタビュー

BOOM BOOM SATELLITES 『TO THE LOVELESS』

 

愛を知らない者へ――国境を越えたミュージシャンとして、その経験と気高いまでの意志、音楽への〈愛〉を注ぎ込んだ大作

 

 

30分に及ぶ4曲入りEP『BACK ON MY FEET』は、『FULL OF ELEVATING PLEASURES』『ON』『EXPOSED』で、ポップ・ミュージックを消化するというミッションを完遂したBOOM BOOM SATELLITESの〈型〉を一度解体/再構築し、より深く、よりエモーショナルでドラマティックな音楽を作り出そうとした作品だった。

そして、あれから約10か月。ベスト盤を経て完成させた待望のアルバム『TO THE LOVELESS』は、『BACK ON MY FEET』で切り拓いた世界を、ナノ単位の精度でブラッシュアップし、鋭く、深く、激しく、抗い難いうねりをもった宇宙へと拡張していくという、音楽と音楽家の気高いまでの意志と積み上げられたスキルが投入された大作となった。そこには彼らが現状の音楽シーンに感じている憂いや危機意識が反映されていたと語る。

「全体的に社会とか文化を見たときに、音楽にものすごい危機感があったんですよ。例えばフェスが定着するなかで、商業主義的なところしか見えてこなくなっちゃった。アーティストがたくさんデビューしても育たないうちに終わっちゃう。おまけにアメリカでは日本よりも何段階も進んだ状況になっていて、そもそもレコード屋がない。ライヴの需要は増しているけど、マーチャンダイジングやチケットの売上で生計を立てられるアーティストは少ない。CDはライヴのプロモーション・ツールに切り替わって、低予算でオートチューンがかかったものばかりですごく貧しい。これじゃレコードを買うのがつまらなくなってしまう。アーティストってリスナーに新しい体験をさせることができる限られた人のはずだし、自分もその一人ならば、切り売りされていく楽曲とは対極の、もっと情深く丁寧に作られたものを時間かけてリリースしよう、最後の砦になってでもいいものを作ろうって意識が高くなっていったんです」(中野雅之、プログラミング/ベース:以下同)。

アルバムを聴いて驚くのは、1曲のなかにこれまで以上の多彩な展開、音楽性が内包され、それらが極めてシームレスに繋がっているという点だ。なかでもラップからドラマティックなメロディーへとスムースに展開する“UNDERTAKER”の芸術的なまでの鮮やかさは、〈ミックス感〉や〈継ぎ接ぎのダイナミズム〉でシーンを席巻したエレクトロ以降のアーティストたちに未来を示しているようでもある。

「前の3枚でシンプルなものを作ったあとで、もっと表現したいというモチベーションがあった。2年くらい仏像を彫っている感覚でしたね。表情や造形美が良くないと愛されないし価値が上がらない。ハドーケン!みたいに初期衝動的ゴチャゴチャ感がいいアーティストもいるけど、僕たちは大人だから研ぎ澄まして美しい音楽にしなくてはならない。他のアーティストのベンチマークになるアルバムを作らなくてはいけないんです」。

2001年の『UMBRA』では、ビッグビートへの最終回答とばかりにダークなビートを蠢かせるなど、BOOM BOOM SATELLITESは、時代へのカウンターを音楽として表現している部分があった。それに加えて『TO THE LOVELESS』では前述の大きな使命感がビートの強度、メロディーの強度、聴き手を導くドラマツルギーへと昇華されている。その象徴的な楽曲が包み込むようなストリングスとヴォーカルが感動的な“STAY”だろう。ここまで踏み込んだヴォーカル・バラードはこれまでのBOOM BOOM SATELLITESにはなかったはずだ。

「アルバム後半に出来た曲で、収録曲のなかでは最新に近いですね。アルバムが崇高でハードな世界観だから、その緊張感をリリースする瞬間があると感動的なアルバムになるなって思ったし、受け皿になる曲を自分も求めていたんですよ。ホントに自由でいようと思ったし、いい曲であればもう制限はなかったんです」。

多くのアーティストが45分というLPサイズへの回帰に向かうなか、70分近い長尺の作品で映画を思わせるイマジネーション豊かなストーリーに見事まとめ上げたBOOM BOOM SATELLITES。『TO THE LOVELESS』は1億総クリエイターたりうる現在に、改めてアーティストとしての矜持と存在感を見せつける作品だろう。その誇り高き音塊は、聴き手が音楽という芸術に対してより深い情愛を抱くきっかけになるはずだ。     

 

▼文中に登場したBOOM BOOM SATELLITESの作品を紹介。

左から、2005年の『FULL OF ELEVATING PLESURES』、2006年の『ON』(共にソニー)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年06月18日 13:55

更新: 2010年06月18日 13:56

ソース: bounce 321号 (2010年5月25日発行)

インタビュー・文/佐藤 讓

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