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インタビュー

ASIAN KUNG-FU GENERATION 『マジックディスク』

 

長いトンネルにも果てはある。でも立ち止まっていたら抜け出すことはできない。ただ前を向き、明日だけを見つめて作られた新作がマジックを起こす!

 

 

留まるの? それとも前に行くの?

これまでとはまったく異なる方法論と、新たなモチヴェーションをもって制作された革新的なアルバムだ。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのニュー・アルバム『マジックディスク』には、プログラミングされたリズムの導入、初となる外部ミュージシャンの参加、画期的な言語表現や歌唱法など、意欲的な試みがたっぷりと詰め込まれている。現状維持は停滞を意味し、希望はみずから歩むこの道の先にしかない。本作でアジカンは、進化するロック・バンドとしての意志を高らかに宣言した。

「進んでいる感覚が本人にあるか、それがすごく大事で、それしか求めていなかったから。〈このバンドはここに留まるの? それとも前に行くの?〉っていう問いかけを、ASIAN KUNG-FU GENE-RATIONというバンドに対して思ってましたね。いちばんダサイのは、いまの状況をキープしにかかることだから。〈おまえら、どうするの? どうなりたいの? 俺は行くよ〉っていう、いままでにない厳しい気持ちでは臨んでましたけどね、バンドやメンバーに対して。まあ、上手く乗り切れたなと思います」(後藤正文、ヴォーカル/ギター)。

後藤のプライヴェート・スタジオで作られた緻密なデモ・トラックを元にバンド・アレンジするという、彼らにとって新しいスタイルは、当初メンバー間に戸惑いを引き起こしたという。が、先行シングル“新世紀のラブソング”を皮切りに次々と生み出された新しい音がもたらす刺激と興奮は、メンバー全員の意識を新たな次元へと押し上げていった。

「後藤が弾き語りで持ってきた曲に良いリズムを付けることには自信があったんですけどね。でもそれだと僕の好きなリズムしか出てこない。今回は僕が思いつかないリズムが出てきたことがすごく新鮮でした。“新世紀のラブソング”では前半と後半とでヘッドも全部張り替えて、シンバルも替えて、4回ぐらいダビングしてます。そういうのも楽しかったですね」(伊地知潔、ドラムス)。

「結果的に、いままでの作品よりはギターを弾きまくっているなあと思います。フレーズのループが若干減って単音ソロが多くなったかもしれない。“双子葉”の後半のギター・ソロとか、“迷子犬と雨のビート”の後半のフリーなところとか、ライヴでやると〈ギター弾いてるな〉という実感がホントにあります」(喜多建介、ギター)。

BLACK BOTTOM BRASS BANDのホーン隊が活躍する“迷子犬と雨のビート”、ピアノとストリングスが大きな存在感を放つ“架空生物のブルース”、そして東京スカパラダイスオーケストラの大森はじめがパーカッションを叩く“ラストダンスは悲しみを乗せて”。外部ミュージシャンの参加も、サウンドをよりヴァラエティー豊かなものにしている重要な要素だ。

「ずっとギター、ベース、ドラムのアンサンブルにこだわってきたんですけど、そこはもう突き詰めて一周したなという感じがあって。ここから先はあんまり楽器にこだわりすぎて先に進まなくなっちゃうのももったいないし、もうちょっと柔軟にやっていいんじゃないかな?という空気感はバンドのなかにあったと思います」(山田貴洋、ベース)。

「いつもアルバムって、〈これだな〉という曲が出来てからバーッと世界が広がるんだけど、今回は“新世紀のラブソング”がそれだったと思います。僕がほとんどサンプリングで作ったものを生でやり直して、手法的にはいままでやったことないことまみれの新曲だったので。ここ何作かはほぼダビング禁止みたいな感じだったけど、その禁も解いちゃって、〈ストリングスもOK、シンセもOK。何をやってもいいや〉っていう感じになっていった」(後藤)。

 

新しいフィーリングを鳴らしたい

サウンドの画期的な成長に併せて、後藤の書く歌詞も大きな進化を遂げた。“新世紀のラブソング”で歌われる、閉塞感ばかりが語られる時代のなかで〈確かな言葉が見当たらない〉と呟きながら、それでも〈不確かな思いを愛と呼んだんだ〉という希望への願いが生み出す静かな昂揚感。“さよならロストジェネレイション”では〈2010は僕たちを一体何処へ連れてくの〉という不安を口にした直後、〈暗いねって君が嘆くような時代なんてもう僕らで終わりにしよう〉と、真っ直ぐな言葉を投げ掛ける。間違いなく『マジックディスク』は、言葉に託した思いがこれまででもっとも濃いアルバムだ。

「大きい枠では、ラヴとか愛とか、よくわかんない大きい言葉をちゃんと書きたいと思って始めたんだけど、1曲目で早々とわからなくなっているという感じなんですけどね。でもまあそういう言葉に込められたポジティヴなフィーリングが、いまは必要なんじゃないかなと思うから、そこと向き合いましょうというのがまずひとつ。あとは、もう少し文学としての詩作というか、詩人であることを意識しようというトライアルもありました。とにかく、サウンドと言葉とメロディーというすべてで何か新しいフィーリングを鳴らしたいというところで、この暗澹たるムードのゼロ年代を終わらせようぜっていう気持ちは強かったです。僕らが子供の頃に思い描いていた21世紀というのはこんなはずじゃなかっただろうという。それは世代的な感覚かもしれないですけどね。いま30代に入ってちょっとですけど、20代はどうしても内省的な季節だったし、社会的にもそういう感じだったんだけど、もう少しフラットになってもいいのかなって思うんですよね。メディアは暗い雰囲気を煽りたがるけど、楽観的な視点も必要なんじゃないかという気がするし、それでもう少し明るい時代に行きたいという願いがあります」(後藤)。

CDセールスの低下、配信の定着など音楽メディアが劇的に変化しつつあるなか、アジカンの取る姿勢は明確だ。『マジックディスク』というタイトルに〈このCDに僕たちが思っている音楽の魔法を吹き込む〉という決意を込め、〈いいものは必ず残るから〉と後藤は言う。混沌のゼロ年代は終わった。『マジックディスク』は、光差す2010年代の幕開けを告げる希望のアルバムだ。

「いろんなところでいろんなミュージシャンが、前の10年よりはいくらか明るいフィーリングで音を鳴らしはじめてる気がするから。そうやって、いま自分の生きている時代や社会に明るさがあればいいなと思います。そういう気分をリスナーの皆さんと共有したいし、〈何か最近鳴ってる音楽、いいね〉みたいな雰囲気になってくれたらいいなと思いますね」(後藤)。

 

▼ASIAN KUNG-FU GENERATIONの作品を紹介。

左から、2009年のライヴDVD「映像作品集6巻 ~Tour 2009 ワールド ワールド ワールド」、『マジックディスク』の先行シングル“新世紀のラブソング”“ソラニン”“迷子犬と雨のビート”(すべてキューン)

 

▼『マジックディスク』に参加したアーティストの作品を紹介。

左から、BLACK BOTTOM BRASS BANDの2010年作『TOUGHNESS AND MADNESS』(SECOND LINE)、東京スカパラダイスオーケストラの2010年作『TOKYO SKA SYMPHONY』(cutting edge)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年06月25日 19:48

更新: 2010年06月25日 19:49

ソース: bounce 322号 (2010年6月25日発行)

インタヴュー・文/宮本英夫