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インタビュー

CECILE CORBEL 『Kari-gurashi ~借りぐらし~』

 

 

7月に公開されるスタジオジブリの劇場最新作「借りぐらしのアリエッティ」。この作品の音楽にフランスの女性ミュージシャンが起用された。彼女の名はセシル・コルべル。フランスはブルターニュ地方出身のシンガー/ハープ奏者で、同地に伝わるケルト音楽をベースにしたコンテンポラリーなトラッド系ミュージックを作っている。起用のきっかけは、彼女がジブリの鈴木敏夫プロデューサーに自身のアルバムを送ったことだった。

「なぜ送ったのか、その時の行動は自分でも不思議なんだけど(笑)。『Song Book Vol.2』(2008年)を作った際にお世話になった人などをまとめた〈感謝リスト〉を作って、最後になぜか〈ジブリ〉と入れたんです。ジブリ作品からは大きな影響を受けているから、ありがとうって気持ちをただ伝えたくて。自分の住所なども書かずにCDを送ったんだけど、探してくれて返事をくれたんです。メールの差出人に〈ジブリ〉ってあるのを見た時は飛び上がるほどびっくりした」。

好きなジブリ作品は?と訊くと、「今日の気分は〈おもひでぽろぽろ〉。東京に来て2週間が経って、田舎の景色が懐かしくなってきたから」と答える彼女は筋金入りのジブリ・ファン。それが発展して映画音楽を手掛けるまでになったのだから、赤い糸で結ばれていたということなのだろう。

日本語詞で披露された主題歌“Arrietty's Song”は、憂いを含んだフォーキー・ナンバー。幻想的なムードを醸すハープとアンジェリックな歌声が絡み合って生まれた清らかな調べは、イメージ歌集である『Kari-gurashi〜借りぐらし〜』でもいっぱいに広がっている。繊細かつしなやかな彼女の音楽は、心の機微が丹念に描かれるジブリ映画に相性ピッタリだ。

「音楽が素晴らしい点も、ジブリ作品が好きな理由。久石譲さんの音楽が好きだけど、〈おもひでぽろぽろ〉ではハンガリーのマールタ・シェベスチェーン&ムジカーシュが使われていたり、選曲もすごくおもしろい。〈ゲド戦記〉にはカルロス・ヌニェス(スペインのガリシア出身のケルト・ミュージシャン)が参加していたけど、尊敬する彼に続いてジブリ作品へ参加できたことはすごく光栄です」。

また、もっとも尊敬する音楽家はブルターニュの伝統音楽を復興させた大家、アラン・スティーヴェルだそう。時にロックの要素を採り込みつつアイルランドなど各国のケルト音楽にもアプローチしてきた彼の外向的な姿勢に影響を受けたという話は、ポップでメロディアスなバラード“Departure At Dawn”などを聴くと納得できる。

「伝統音楽の枠にはまりすぎてしまうと、伝統自体を死なせてしまうと思う。私も時代に上手くフィットさせるにはどうしたらいいかを常に考えていて、例えば〈どんな音楽を作っているの?〉って訊ねられたら、〈21世紀のケルト音楽〉って答えるようにしているんです」。

しかし何といっても、懐かしくて優しい味こそ彼女の音楽の魅力だろう。ゆったりとした時間の流れを作り出す、愛おしき楽曲たち。ふと彼女の音楽の原体験を訊いてみたくなった。

「父が版画家で母が画家だったから家にアトリエがあって、そこにレコード・プレイヤーが置いてあったんです。幼かった私は2人がいない時にこっそり入っていろんなレコードを聴いていました。クラシック音楽とか、レオ・フェレやジョルジュ・ブラッサンスなどのシャンソンとか、古いレコードのなかから好きな音楽を探し出すのが楽しくて。あのアトリエの雰囲気が私にとって音楽の原風景だと思います」。

その風景が彼女のアルバムを聴いているとぼんやり見えてくる。たぶんあなたにも見えると思う。

 

PROFILE/セシル・コルベル

フランスはブルターニュ地方、フィニステール生まれのシンガー/ハープ奏者。思春期にケルト音楽に傾倒し、地元の音楽学校でハープを習いはじめる。その後大学へ進学し、考古学を学びながらハープの弾き語りでアーティスト活動を開始。ベース、ギター、チェロなどを従えてフランスをはじめヨーロッパ各地で演奏するようになる。2005年にリリースしたファースト・アルバム『Herpe Celtique & Chants Du Monde』を皮切りに、2006年に『Song Book 1』、2008年に『Song Book Vol.2』と作品を発表。今年7月に公開予定のスタジオジブリの映画「借りぐらしのアリエッティ」で音楽を担当し、そのイメージ歌集『Kari-gurashi ~借りぐらし~』(YAMAHA)を4月にリリースしている。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年07月15日 21:44

更新: 2010年07月15日 21:45

ソース: bounce 322号 (2010年6月25日発行)

インタヴュー・文/桑原シロー