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インタビュー

acid android 『13:day:dream』

 

リズムには徹底的にこだわり、とにかく〈カッコイイ音〉を求めて試行錯誤を重ねるyukihiro。今回もそんな〈研究心〉を存分に発揮した新作が完成したぞ!

 

 

地を穿つ激鉄のようなハードなギター・リフと、シンプルで小気味良いグルーヴを描き出す打ち込みのビート、そしてその名の通りのアシッド・サウンド。L'Arc~en~Cielのドラマー、yukihiroによるソロ・プロジェクト=acid androidのニュー・アルバム『13:day:dream』は、彼がこれまで通過してきた音楽を抽出し、巧みに構築した作品となった。アシッド・ハウス、インダストリアル、ヘヴィー・ロックとさまざまなキーワードが浮かび上がる内容だが、そもそもyukihiroはどのような音楽の道を歩んできたのだろうか。   

「最初に音楽に興味を持ったのは土屋昌巳さんが大きいです。ジャパンのサポートもやっていたのでそこからですね。バンドは高校生の時から始めて。当時はヘヴィー・メタルがブームでLOUDNESSや44MAGNUM、EARTHSHAKER、DEAD ENDを聴いていくなかで、スラッシュ・メタルやガスタンクみたいなハードコアのカヴァー・バンドをやるようになりました。で、その後ニューウェイヴに向かうようになったんです。もともとダンス・ミュージックには全然興味がなかったんですけど、それが大きく変わったのはミニストリーからですね。いわゆる〈エレクトロニック・ボディー・ミュージック〉〈インダストリアル〉って言葉が出てきた時からです。ニッツァー・エブやミート・ビート・マニフェストとか、新宿エジソン(当時パンク/ニューウェイヴの聖地として知られていたレコード屋)で〈ボディー・ミュージック〉と書いてあれば何でも買ってましたね。そうやって聴いていた音楽をどうやってバンドに採り入れるかをいろいろ試行錯誤してました」。

acid androidは2001年にyukihiro名義のシングル“ring the noise”からスタートしており、L'Arc~en~Cielの活動が緩やかになった時に作品を制作。これまでに3枚のアルバムをリリースしているが、今回の新作においてyukihiroはどのようなサウンドを指向したのだろうか。

「今回はやりたいことをそのまま素直にやろうって感じですよね。さっきも挙げた、自分がいままで見てきてカッコイイなと思った音楽に対する影響をわりと包み隠さずやろうと。〈あの曲カッコイイな〉って曲があったとしたらそこをめざしてやろうって感じですね。いままでだったら工夫してそうは聴こえないようにしようとしていたんですが、今回はそういう部分が薄いというか、〈あの曲まんまじゃん〉って言われてもいいよってくらい堂々とオープンにやった感じなんですよね」。

acid androidの音楽の軸は“violent parade”などが象徴するように、ラウドなギター・リフとグルーヴィーなマシーン・ビートの融合が軸になっている。その音の有り様は、まるで設計図通りに、各サウンドの効果を最大限に発揮するような緻密な音作りになっているように感じられる。

「実は、自分は感情を曲で表現しようというのはあんまりないんですよね。ただ格好良い音を純粋に出したいし、それが聴きたいんです。例えばディストーションのギターを聴きたいならどういう音にすればいいのか、ドラムの音やベースの音をどういじれば最大限の効果を出せるのかっていうほうに興味があるんですよ。設計に近い感じですね。そのためにアラン・モルダーやテリー・デイト、ロス・ロビンソンなど好きなエンジニアやプロデューサーがクレジットされているアルバムをすべて買って研究したりします。それでイメージ通りの音が出た時に、〈ああ、こうかー〉ってグッとくるんですよ。そのポイントが見つかるまでずっと探し続けてしまうんですよね。それでファースト・アルバム(『acid android』)なんかは1年に渡ってミックスをやり続けちゃって(笑)。acid androidは僕のプロジェクトなのでそういう面が極端に出ている感じになります」。

なかでもyukihiroがこだわっているのがギター・サウンドだろう。ドラマーとはとても思えないほどアイデアに富んだゴリゴリのリフから、MO'SOME TONEBENDERの百々和宏がギター、フルカワミキがコーラスで参加した“swallowtail”のような轟音のウォール・オブ・サウンドまで、みずからの文脈で快感原則に従ったサウンドを具現化している。その有り様はまるで研究者だ。

「ミニストリーのようなインダストリアルなサウンドからコーンやリンプ・ビズキット、デフトーンズのようなヘヴィー・ロック・サウンドへ流れていく過程で、やっぱり格好良いギター・リフを求めていくようになっていったんです。そこにボディー・ミュージック的な構成を掛け合わせていくのがacid androidの基本の形ですね。“swallowtail”は僕なりにシューゲイザーを表現してみたんですけど、やっぱりシューゲイザーを理解してるギタリストに弾いてもらいたくて百々さんにオファーしたんです。ギター録りの時は〈なるほど!〉って感じでしたね。ミニ・アルバム(『faults』)を作った時はカーヴのトニ・ハリデイをゲストに迎えたんですけど、今回はフルカワさんにお願いしています」。

一方、ビート作りに関しては彼独特の美学が息づいている。

「いまの音楽はリズムの音色やパターンがすごく大事だと考えているんです。つまり、作った音楽を現代的な形に落とし込むうえで、いまのリズムっていうのは必要不可欠なんです。だからacid androidではそれをどう格好良く聴かせるかという点において研究する場になっていますし、その結果を発表する場になっていますね」。

最近ではルチアーノやグリンプスなどを好んで聴くというyukihiro。オールド&ニューな価値観が巧みに反映されたニュー・アルバム『13:day:dream』の全13曲を聴けば、バンド活動のなかではひとつのピースとして機能していた彼のユニークな価値観を発見できると共に、L'Arc~en~Cielでは断片的にしか体感することができなかった彼のハード&ヘヴィーかつ音の機能性を余すところなく引き出す手腕を存分に楽しめるはずだ。

 

▼関連盤を紹介。

L'Arc~en~Cielのベスト盤『QUADRINITY ~MEMBER'S BEST SELECTIONS~』(キューン)

 

▼『13:day:dream』に参加したアーティストの作品を紹介。

左から、MO'SOME TONEBENDERの2008年作『SING!』(コロムビア)、フルカワミキの2010年作『Very』(キューン)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年08月16日 13:56

更新: 2010年08月16日 13:57

ソース: bounce 323号 (2010年7月25日発行)

インタビュー・文/佐藤 譲