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インタビュー

KT TUNSTALL 『Tiger Suit』

 

結婚、旅、チャリティー活動——さまざまな経験を通じて真の自分を発見したというケイティ。新しく生まれ変わった自由でワイルドで大胆な彼女が、愉快なミュージック・アドヴェンチャーに案内するよ!

 

今回はダンスを意識したのよ!

「旅の間中、ずっと原始的な何かに触れているような感じだった。わかったのは、いまも昔も私は野性的なんだということ。子供の頃は茂みのなかやテントのなかにいるのが好きだったし、常に身体を動かしたり、冒険したりしたいって思ってたわ」。

ペダルを踏みながら一人で多重演奏を行ったり、バンドでもエモーショナルなライヴ・パフォーマンスを展開するケイティ・タンストール。映画「プラダを着た悪魔」のオープニング曲“Suddenly I See”が大ヒットしたことでも知られるが、実際はかなりワイルドなシンガー・ソングライターだ。3枚目となるニュー・アルバム『Tiger Suit』のレコーディングに入る前には、アートを通して気候変動を知るチャリティー・プロジェクト〈Cape Farewell〉に参加するためグリーンランドへ出向き、バック・バンドのドラマーでもある夫のルーク・バレンともガラパゴス島やペルーのマチュピチュ遺跡、インドなどを旅して回ったとのこと。そして2008年末には、ニール・フィン主催のイヴェント〈7 World Collide〉で、ジョニー・マーやウィルコ、レディオヘッドのエド・オブライエン&フィル・セルウェイらと共演している。

これらの体験を踏まえた彼女は、ジム・アビス(アークティック・モンキーズやアデルなど)をプロデューサーに迎えてアルバムの制作をスタートさせた。

「ジムとは最初にレフトフィールド、バウ・ワウ・ワウ、コクトー・ツインズ、キュアーなどを聴いたわ。そして、2人の趣味が合い、同じようなビートやサウンドが好きなことがわかったの。私はいままでライヴ・レコーディングをやったことがなかったんだけど、今回、彼の提案で挑戦することになった。ドラマー2人、そしてギタリストやベーシストといっしょにレコーディングに臨み、ヴォーカルも含めていままでよりもさらに感情を込めることができたんじゃないかと思っているわ。それと、今回は〈ダンス〉を意識したのよ!」。

サウンド面でいえば、流石はジム・アビス!と思うほど、一つ一つの音を手の感触で確かめられるかのようなザラつきのある質感と、透明度の高いシャープな音色が心地良く混在している。彼女自身、これらをオーガニックな楽器とダンス・ミュージックの要素をブレンドした〈ネイチャー・テクノ〉と名付けているほどだ。

「ジムといっしょにやることによって、より実験的で、より美しい音風景を描き出す曲を作れるようになった。いままではジャズっぽい音だなと思えばジャズっぽい曲として仕上げていたけど、このアルバムでは特定のスタイルに囚われず、自分が作りたい音を作るようにしたの。曲がどう聴こえるかによって場所を想起させたかったのよね。それぞれの曲にまったく新しい世界観を与えたかったわ。それがいちばん上手くできた曲が“Difficulty”だと思う。いままでとは違うサウンドに仕上がったから、すごく誇りに思っているの!」。

 

ワイルドな世界へ踏み出せたわ!

冒頭を飾る“Uummannaq Song”は、グリーンランドで書いた曲だという。

「これは私にとってとても大切な曲。〈Cape Farewell〉にジャーヴィス・コッカーやファイスト、坂本龍一といったミュージシャン、彫刻家や研究者たちと参加した際に、自分の力量や今後自分がどうすべきかをいろいろ理解できて、そこからこの曲が完成した。アルバム用に最初に書き上げた曲でもあり、氷山に囲まれた北極海に浮かぶ船のデッキでライフヴェストを叩きながら作った曲よ。ここには私のトライバルな雄叫びも収録されているんだけど、いままで囚われていた商業的な枠から抜け出すきっかけとなったわ」。

また、リンダ・ぺリー(ピンクやクリスティーナ・アギレラなど)との共作曲もある。

「彼女との仕事を通じて、ミュージシャンというよりも一人の人間として成長できたと思う。70年代っぽいとてもグラム・ポップなナンバーとアルバムに収録された“Madame Trudeaux”を作ったんだけど、私はそのレコーディングの時に自信を失っていたの。そうしたらリンダに、〈あなたの唯一の問題は他人がどう思うかを気にしすぎること〉と言われてね。そのおかげでもっとオープンに、素直になることができた。殻を破って自由になれたような、よりワイルドな世界へと踏み出せたような気がするわ」。

他には過去のアルバムと同様、ロン・セクスミスやジェイムズ・モリソンのプロデュース仕事で知られるマーティン・テレフェ、エイミー・ワインハウスやエステルの作品にも関与するジミー・ホガース、バード・アンド・ザ・ビーの片割れにしてプロデューサーとしても超売れっ子のグレッグ・カースティンとも曲作りを行い、ユニークなところでは今年69歳を迎えるシーシック・スティーヴをゲスト・ヴォーカルに迎えたコズミック・ブルース“Golden Frames”なんてものも披露している。いずれも独特の世界観、サウンドスケープを持ったナンバーばかりだ。

現在ツアーに向けて準備中のケイティだが、何と元アッシュのギタリストであるシャーロット・ハザレイがバンドのメンバーに加わったという情報も入ってきている。そんなわけで、今後も次々と新しい音作りに意欲を燃やしている様子の彼女だけれど、ライヴ・パフォーマンスも楽しみでたまらない。

 

▼ケイティ・タンストールの作品を紹介。

左から、2004年作『Eye To The Telescope』、2005年のアコースティック・アルバム『KT Tunstall's Acoustic Extravaganza』、2007年作『Drastic Fantastic』(すべてRelentless/Virgin)

 

▼ケイティ・タンストールの参加作を紹介。

左から、トラヴィスの2007年作『The Boy With No Name』(Epic)、アニー・レノックスの2007年作『Songs Of Mass Destruction』(Arista)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年09月22日 18:00

更新: 2010年09月22日 18:34

ソース: bounce 325号 (2010年9月25日発行)

インタヴュー・文/伊藤なつみ