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インタビュー

THE ROLLING STONES 「Ladies & Gentlemen」

 

飛び散る汗、漲るエナジー、吹き出るフェロモン——むせ返るほど濃密な空気を詰め込んだ、ならず者たちの最高にワルな伝説のステージが、40年近い月日を経ていま蘇る! ARE YOU READY?

 

 

どうしてこんなに時間がかかったかって?

伝説の映像が華麗なる復活を遂げる。昨年から始まったローリング・ストーンズのアーカイヴ化事業の流れに乗って、幻のライヴ・フィルム「Ladies & Gentlemen」が陽の目を見るのだ。こいつは96年に実現したライヴ映像「Rock And Roll Circus」(撮影は68年)の蔵出し並みにインパクトを持っていると断言していいだろう。

インパクトといえば、未発表音源を追加収録した70年発表のライヴ・アルバム『Get Yer Ya-Ya's Out!』や72年作『Exile On Main St.』の特装盤、その『Exile On Main St.』の制作背景を辿るドキュメンタリーDVD『ストーンズ・イン・エグザイル~「メイン・ストリートのならず者」の真実』の登場も相当なものだった。 いまを生き抜くことに何よりも情熱を傾けるストーンズは、過去の遺産を整理整頓する作業にあまり力を注いでこなかった印象があるけれど、今回は本腰を入れている。その腰の動かし方ったらすごくモーレツで、こちらはこのところトキメキの連続なのだ。

『Exile On Main St.』の〈Deluxe Edition〉において、すでに「Ladies & Gentlemen」本編からの2曲が予告編的に公開されており(内容のスキャンダラスさゆえにお蔵入りとなった幻のツアー・ドキュメンタリー「Cocksucker Blues」のダイジェストと共に!)、このたびいよいよ全貌があきらかになったわけだが、9月23日に日本武道館で上映会が開かれるなど巷の盛り上がりはハンパじゃない。

ところでこの映像がなぜ〈幻〉なのかというと、74年に完成しながらも、当時上映できるシステムを備えた劇場がなかったためNYで一度封切られたきり……となっていたからだ。復活の経緯はミック・ジャガー本人の言葉で。

「もともとこれは劇場用に撮影されたんだと思うよ。当時はまだホーム・ビデオ市場が発展途上だったからね。TVで放映しようと思えばできたのかもしれないけど、意図としては劇場公開が前提だったね。それが今回やっと叶ったわけだ。どうしてふたたび世に出る までこんなに時間がかかったかって? よくわからないけど、確かこれは僕らが買い取ったんだよ。それまでの所有者が使わずじまいだったので、買い取ることにした。前の所有者は金が必要だったとか、そんな理由で手放したんだろうね。で、買い取ったあと、きれいに整えたんだ。けっこう傷んでたからね。修復にはかなり費用がかさんだよ。フィルムというのは劣化するから、きちんと管理するか、定期的にコピーしておくかしないといけない。今回はわれわれが費用をかけて、きれいにして、こうして公開できたというわけ」。

 

ありのままの映像だ!

問答無用の傑作『Exile On Main St.』のリリース直後に行われた、彼らにとって久々となる72年の北米ツアー(その前のツアーでは殺人事件——いわゆる〈オルタモントの悲劇〉——が起 きている)。そのなかから6月24日のフォトーワース、25日のヒューストンでの昼夜計4公演を撮影したのが本作だ。70年代初期の〈ならず者〉度が高 かった頃で、ライヴ・バンドとして最強だったといわれる時代のストーンズを映し出してくれる作品なのだから、注目を集めるのは当然のことだし、73年1月に予定されるもキャンセルとなった初来日公演を幻視しつつ見つめる古いファンも多いことだろう。

「バンドはすごくまとまっているね。時期によってローリング・ストーンズのステージはダラけたり、いい加減だったりした記憶があるけど、これは違う」。

そうミックが明言している通り、激しく揉み合いながら独特のルーズなグルーヴを発生させて艶めく彼ら。その様子をシンプルなカメラワークが生々しく切り取っている。

「むしろあの時代を反映した作品なんじゃないかな。あの時代はこうやって撮影していたんだ。もちろん改善の余地はあったかもしれないけど、これが70年代を象徴しているのは間違いないよ。必ずしも動く人をカメラが追い続けるわけではない。自分がフレームから外れていっても、フレームはそのまま位置を変えない。60年代から使われるようになった撮り方だね。そのフレームのなかでなにかが起きるのを、ひたすら待つような撮影技法だ。ちょっとおもしろいよね。ステージ側からカメラを向けてもらって、観客の服装も観たかったよ。他のミュージシャンや違った照明でも、 もっと映してほしかったさ。でもこれはこれでもう変えられないんだ。これこそが当時撮影したありのままの映像だ」。

この時代らしい、ねちっこいスワンピーなサウンドの手触りは実に粗削り。舞台上もさっぱりしており、スッピンのストーンズがくっきり浮かぶような仕上がりで、完璧に構築されたエンターテイメント性の高い近年の映像作品(例えば「Shine A Light」など)とは異なる趣だ。確かに彼らには完成度の高い映像作品が山ほどある。しかし、これほどライヴの場で生まれる特別な空気を真空パッケージしてみせたものは他に見当たらない。ミックの妖しい腰付きにも釘付けになるが、なんといっても当時のメンバーだったミック・テイラーの鮮やかすぎるギター・プレイには目を見張る。

「あの目映いほどのソロは存在感があるよね。アドリブで美しいソロを弾くんだ。“Love In Vain”なんてすごいよ。“Dead Flowers”ではカントリーっぽいギターも弾いている。すごく軽やかなプレイだと思うよ。彼のシャツもおもしろかったね。あの、スパンコールのベロマークのヤツ。チャーリー(・ワッツ)はルンバの衣装を着ているよ、フリルたっぷりの袖のね。映像では僕がジャンプスーツを着ていたかと思うと、突然ピッ タリしたグリーンのパンツを履いている(笑)。何であんなに素早く着替えられたんだろうって思わなかった? それと、スパンコール付きのキラキラしたアイシャドウまで塗っていたね。でもだんだん汗で剥がれてきちゃって、気持ち悪かったよ。糊が溶けるんだ。あれはグラム・ロック時代ならではの苦労だね」。

疾走感バツグンの“All Down The Line”や“Midnight Rambler”を観ていると、この映像が〈幻〉だったことを知らずに触れたとしても、闇雲なエネルギーを放出する彼らの音楽に引き込まれ、貴重なものを観たって気にさせられるだろうと思う。それほどまでに、ここでのストーンズの存在感は圧倒的だ。さあ、この勢いで「Cocksucker Blues」も復刻していただいて……ってわけにはいかないか。

【耳より情報】タワレコでDVD「Ladies & Gentleman」をゲットすると、オリジナル・アナザー・ジャケットが付いてくるって!? 数量限定なのでお早めに!

 

▼ローリング・ストーンズのDVDを紹介。

左から、68年のライヴを収めた「Rock And Roll Circus」(ユニバーサル)、2010年に公開されたドキュメンタリー『ストーンズ・イン・エグザイル~「メイン・ストリートのならず者」の真実』(YAMAHA)、70年に公開されたドキュメンタリー「ギミー・シェルター」(ワーナー・ホーム・ビデオ)、2008年に公開されたドキュメンタ リー「ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト」(ジェネオン・ユニバーサル)

 

▼関連書籍を紹介。

キース・リチャーズのインタヴューやディスクガイドなどを掲載したムック「rockin'on BOOKS vol.4 THE ROLLING STONES」(rockin'on)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年10月13日 17:59

ソース: bounce 325号 (2010年9月25日発行)

構成・文/桑原シロー