こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

SLEIGH BELLS 『Treats』

 

 

「何年も何年も俺は女の子のヴォーカリストを探していたんだ。ある日、俺がバイトしているブルックリンのレストランで、アレクシスと彼女の母親に会ったんだよ。母親のほうと話していて、〈女性のシンガーを探しているんだ〉って言ったら、〈じゃあ、この子はどう?〉って。そこからすべてが始まったんだよ」(デレク・ミラー:以下同)。

アニマル・コレクティヴ、TVオン・ザ・レディオ、ギャング・ギャング・ダンス、ドラムス、MGMT、そしてヴァンパイア・ウィークエンド……ここ数年、ブルックリンからは音楽好きを歓喜の渦に巻き込んだユニークな面々が相次いで登場し、ちょっとしたムーヴメントとして見なされることも多い。偶然の出会いから結成に至ったデレク・ミラーとアレクシス・クラウスのコンビ=スレイ・ベルズもそんなブルックリンから現れた一組なのだが、いわゆる〈ブルックリン・シーン〉というキーワードでリンクしたアーティストたちとは一線を画し、驚くほど凶暴なサウンドを持ち味としている。鼓膜を破らんばかりのギター・ノイズ、身体を打ち抜かれるような感覚すら覚える重低音のド迫力ビート、アレクシスの可憐なヴォーカルとキャッチーなメロディーライン、これらの相反するとも言える要素を見事にマッチさせてしまったのが彼らの特徴であり、強みでもある。

「メロディーを重視したサウンドだから、もちろん紆余曲折はあったけれど、最終的にはうまくハマッたよ。もともとヘヴィーな音楽をずっとやってきたぶん、ヘヴィーな重低音のサウンドとメロディーをどう相性良くするかは逆に得意とするところなんだ。ま、試行錯誤の連続だけれどね」。

デレクがかつて在籍していたハードコア・バンド、ポイズン・ザ・ウェルでの経験が活かされた形だが、バンド時代には「ライヴの後は家でマドンナのベスト盤を聴いてたりしたよ(笑)」と明かす通り、プライヴェートではポップな音楽がお気に入りだったようで、フォー・トップスを筆頭とする往年のモータウン・サウンドもフェイヴァリットに挙げている。まあ、作る音楽と趣味で聴く音楽が異なるケースはままあることで珍しくはないのだが、ハードさとポップさの両面を際立たせたまま同じ曲にブチ込んでしまうデレクのセンスに非凡な才能があるのは、彼らの曲を1曲でも聴けば十分に感じ取れるはずだ。そして、その才能は、数々のメジャー・レーベルだけでなく、スパイク・ジョーンズやスレイ・ベルズと契約を結んだM.I.A.も敏感に察知するところとなる。

「俺がスパイク・ジョーンズの映画〈かいじゅうたちのいるところ〉のことをブログに書き込んだら、スパイクから連絡があったんだ。それで俺たちの曲を聴かせたらムチャクチャ気に入ってくれて、俺たちのことをM.I.A.に熱く語ってくれたらしいんだ。そしたらM.I.A.から電話があって〈いまNYの空港に着いたとこなの。明日の私のショウに出てぶちかましてよ。で、その次の日はいっしょにスタジオに行くわよ〉ってね。それが出会いさ」。

そうしてデレクはM.I.A.の話題作『/\/\ /\ Y /\』に収録された“Meds And Feds”へ参加することになる。このことも援護射撃となり、スレイ・ベルズのファースト・アルバム『Treats』は、リリースから早々に好リアクションで迎えられている。アルバムにはプロディジーばりにエネルギッシュなビート、マイ・ブラディ・ヴァレンタインも引き合いに出されるほどのノイズの壁、アレクシスのロリータ・ヴォイスが豪快に投げ込まれ、その評判に違わぬ大胆不敵な曲が詰まっている。音楽でガツンとくる衝撃を体験したいならば、迷わず『Treats』を選ぶべきだ。

 

PROFILE/スレイ・ベルズ

デレク・ミラー(ギター/プロダクション)、アレクシス・クラウス(ヴォーカル)から成る2人組。ポイズン・ザ・ウェルを脱退してパートナーを探していたデレクが、ティーン・ポップ・バンドのルビーブルーで活動していたアレクシスと出会って2008年に結成。翌年の〈CMJ Music Marathon〉に出演して注目を集め、オンラインで発表していた“Crown On The Ground”などの楽曲が「Pitchfork」などに絶賛される。その後M.I.A.の主宰するN.E.E.T.と契約し、今年に入って公式なファースト・シングル“Tell 'Em”をリリース。5月にはファースト・アルバム『Treats』(N.E.E.T./Mom+Pop/ソニー)を発表し、このたびその日本盤がリリースされたばかり。

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年10月28日 14:37

更新: 2010年10月28日 14:37

ソース: bounce 326号 (2010年10月25日発行)

構成・文/青木正之