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インタビュー

SHINGO★西成 『I・N・G』

 

現状を逞しく生き抜く言葉と、温かい人間性を照射したストロングな歌心。環境も新たに堂々の完成を見た『I・N・G』は、まさに現在進行形の存在感に溢れている!

 

前作『Sprout』から約3年半ぶりとなったSHINGO★西成の新作『I・N・G』が、彼自身が「俺にないモンを持ってる間違いないアーティスト」と敬愛して止まない般若の主宰する昭和レコードからリリースされた。

「自然体でおったら、このタイミングでこういう形で出すことになったっていう感じですね。何の違和感もないというか。俺を発掘してくれたLibraには、ホンマ感謝最大です。その気持ちはお世話になってた時も、いまも変わらないですね。俺の経験と出会いが膨らんでいった結果、昭和レコードから出すことがいちばん適切で、いちばん良い表現ができるやろな、と思いました。さらに進化できるようチャンスを頂いて、おおきにって感じですね。まあでも、どこから出すからどうとかやなく、ホンマに芯はブレてないんで。3年半も空いてるし、〈新SHINGO★西成〉を見てもらおうと思ってます」。

ここで彼が言う〈経験と出会い〉は、リリース的に空白となったこの3年半の間もその歩みを止めなかったことを証明している。

「いろいろと足跡はつけることができました。3年半ですからね……長い時間だと考えたら3枚くらいアルバムを出せたかなとも思うけど、それ以上に客演に呼んでくれたアーティストや知り合った仲間たちといろんな景色を観られたし、ホンマ感謝最大です」。

本人もこう話すように、前作のリリース以降、彼へのフィーチャリング依頼は急増、そのオファー主の幅広さには目を見張るものがあったが、それはすなわち、彼が持つ八面六臂の音楽性ともイコールである。

「日本にもイケてるアーティストがぎょうさんいて、そういうのを吸収したうえでのヒップホップっていう音楽が形としてわかるように表現したのが今回のアルバム。例えば〈90年代のヒップホップがかっこええわ〉ってずっとそのスタイルで行くんもアリですけど、俺はいまのラップも昔のラップも、もちろん育ちのレゲエも好き。ソウルもファンクも聴く。西成に帰ったら近所はいまだに演歌で溢れてるし、家ではボサノヴァとハウスばっかり聴いてるし。その結果がこういうアルバムになったんですよ」。

“ひとりぼっち”のようにスムースなジャズ・ナンバーがあったかと思えば、童謡にすら聴こえるほど振り切れた“できたかな?”がある(共にプロデュースはEVISBEATS)。〈ヴァラエティーに富んでいる〉とかいう言葉で片付けてしまうにはあまりにももったいない。

「やりたいことはもっといっぱいあるんですよ。IKEAの引き出しより数は多いんで(笑)。そこを一個開けるたびに曲が出てくる」という冗談もあながち嘘ではないほど、自由な表現の詰め込まれた本作ではあるが、不思議と散らかっている印象はない。それは、リリックに織り込まれた圧倒的に強いメッセージが、一貫した軸として存在することによる部分が大きいだろう。

「その代わり、言葉選びだけは〈何を守って何を捨てるか〉っていうふうに削ぎ落としてやった。言葉数は少なく、間を空けて。音と言葉と間が俺らのウェポン。それを大事にしながらやったつもりなんですよね。何度も聴いてもらえるようなイケてる曲を作りたいし、爪先から頭まで、いろんな切り口で俺を見てもらいたいと思って作ってましたね。めっちゃパーティーな、楽しそうな曲でも〈ん? コイツ、パーティーな曲の奥にシリアスなメッセージを仕掛けてるやん〉みたいなんもあるし、削ぎ落としすぎて一言しか言うてない曲もあるけど(笑)。ブラッシュアップするべき曲はしっかりと磨いて。でも、野菜とかといっしょで、泥がついたまま出したほうがいい場合もある。いろいろ経験して失敗もいっぱいしたことで、それもちゃんとわかったんですよ。だから、泥ついたまま出してるのもありますよ。全曲、ズルムケたらこうなりましたね」。

種を蒔き、『Sprout』で芽生えた彼の音楽は「自然体で等身大。自分の責任の持てる言葉で経験を語ったり、足をつらない程度に背伸びして夢を語ったり」しながら、一歩ずつ進化を遂げてきた。〈I・N・G〉という言葉は、その象徴でもある。

「〈常に進行形〉っていう言葉はラップを始めた時から言ってるんです。曲名だけでも〈コイツ、何考えてんねん〉って感じやと思うんですよね(笑)。せやからこそ、〈こういう不器用なアーティストもおって、夢を諦めずに成長しようとしてるんやな! 24時間ラップのおじさんもがんばってんな~、俺もがんばろう〉と思ってもらえれば。逆に、〈何やこれ〉って思うヤツもそう言ってくれたらいいと思う。それが素直な感想で、喜怒哀楽を出してくれたらいいと思うんですよね。俺は喜怒哀ラップをやってるんで、ホンマに。最後に、日本全国の音楽やってるみんな! それをサポートしてる仲間や家族! その土地土地で個性的な音楽が生まれること、みんなが注目してもらえるように俺も協力していくんで、あきらめず、クサらず音楽しましょうラパッ!」。

 

▼関連盤を紹介。

左から、般若の2009年作『HANNYA』(昭和レコード)、EVISBEATSの2008年作『AMIDA』(AMIDA STUDIO)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年12月09日 23:20

更新: 2010年12月09日 23:24

ソース: bounce 327号 (2010年11月25日発行)

インタヴュー・文/吉橋和宏