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インタビュー

The Suzan 『Golden Week For The Poco Poco Beat』

 

 

記念に作ったデモ音源が、〈学校の行き帰りに寄れる場所〉という理由でたまたまそれを送ったROSEからリリースされ、さらには旅行のついでにヨーロッパやNYで行ったライヴが大ウケし、ゴー!チームのUKツアーでオープニング・アクトに抜擢されるというシンデレラ・ストーリーを歩んできたThe Suzan。そんな彼女たちの新作『Golden Week For The Poco Poco Beat』を手掛けたプロデューサーは、あの〈口笛ソング〉でお馴染みのピーター・ビヨーン&ジョン(PB&J)のビヨーン・イットリングである。

「2007年の〈フジロック〉に友達のウィップというUKのバンドとPB&Jが出てて、そこでウィップのメンバーが私たちのことをビヨーンに紹介してくれたらしくて。その後MySpaceをチェックしたビヨーンが気に入ってくれてメッセージを直接くれたんだけど、最初は偽者なんじゃないかって疑いました(笑)」(NICO)。

その後、2008年に(本物の)ビヨーンとストックホルムでレコーディングした本作は、驚くべきことにカニエ・ウェストのお抱えDJとしても知られたA・トラック主宰のフールズ・ゴールドから、レーベル初のバンド作品としてUSでは2010年の秋にリリースされている。

「小さいレーベルからは声がかかっていたんですが、ある程度しっかりしたレーベルから出したいというビヨーンの意向もあってひたすら待ってたんです。大学を卒業して、つまらないオフィスワークをしながら、毎日すごくモヤモヤしてました。そうしたら、まさかのヒップホップ・レーベルに決まったと(笑)」(Rie)。

こうしてついに世に出た作品は、これまでのガレージ色は抑えめに、シンセやストリングスなどが的確に配置された、クリアなプロダクションが光る作品となっている。なかでもオープニングを飾るサーフでトロピカルな“Home”は、いまのUSインディー・シーンにマッチしたキラー・チューンだが、それはまったくの偶然だそうだ。

「“Home”を作ったのは、前作の『SUZAN GALAXY』(2007年)をリリースした頃なので、いまのUSインディー・シーンの流れはまったく予想していなかったんです。ガレージがいいとか、サーフ・ロックがいいとか、ジャンルもまったく無視して、時代も何も関係なく作ってますね」(Saori)。

確かにThe Suzanの音楽性をカテゴライズするのは難しい。もちろんインディー・ロックやガレージのテイストはあるのだが、ブラック・ミュージックやフレンチ・ポップなどを連想させる、実に振り幅の広いSaoriのヴォーカルが、バンドのオリジナリティを決定付けているように思う。

「もともと好んで聴いてるのが70年代のシンガー・ソングライターだったりするので、バンドの曲を作るときにそれが出てきちゃうのかもしれない。ブラック・ミュージックが好きなのは、どっちかと言うとRieのほうですね」(Saori)。

「2人の好みが違うんですよ。だからひとつのアルバムに収めようとすると、こういう作品になっちゃうんです」(Rie)。

MySpaceが上陸した頃は、〈これで海外との距離が縮まり、進出していくバンドが増えるかもしれない〉という期待感もあったが、結局ここ数年、目に見える形で結果を残したのはThe Suzanぐらい。やはり大事なのはツールではないのだ。

「海外に行ってライヴをするのは簡単だと思うけど、音源を出すとなると別もの。やっぱり英語で歌ってないとダメだし、海外でウケる音楽を作れているかどうかも大事。あとは自分でお金を用意して、現地に根付いていくことができるか。この3つが揃っていないと、作品を海外から出すことは無理だと思う」(Rie)。

大胆な行動力と的確な状況認識があってこそのシンデレラ・ストーリー。これからもThe Suzanから目が離せない!

 

PROFILE/The Suzan

Saori(ヴォーカル)、Rie(ギター)、Ikue(ベース)、NICO(ドラムス)から成る4人組。SaoriとRieとで2003年に結成され、後に他の2人が加入し現在の編成に。2004年、〈GEISAI〉にて初ライヴを行う。2005年、ベルリンでの初の海外ライヴを皮切りに、同年夏にヨーロッパで、2006年にはNYとUKでツアーを敢行。2007年に初作『SUZAN GALAXY』を発表し、2008年にビヨーン・イットリングと作品のレコーディングを行う。2010年7月にUSのフールズ・ゴールドより7インチ・シングル“Home”をリリース。同年10月にニュー・アルバム『Golden Week For The Poco Poco Beat』(Fool's Gold/Downtown/HOSETESS)を発表し、その日本盤が今年1月にリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年02月25日 14:30

更新: 2011年02月25日 14:30

ソース: bounce 328号 (2010年12月25日発行)

インタヴュー・文/金子厚武