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インタビュー

THE DEATH SET 『Michel Poiccard』

 

この世を去った仲間のためにも、バカ騒ぎを続けようと決心した彼ら。この最高にクレイジーで最高に楽しいエレクトロ・パンクを喰らえ!

 

シンプルでストレート、エナジェティックでスピーディーな音楽性はもちろんのこと、ピュアでポジティヴ、そして自由奔放なスピリットや何者にも屈しないアティテュードも重視される、〈キッズ〉のためのホットなミュージック、パンク・ロック。そんなパンク・ロックとローファイなエレクトロ・サウンドを融合した2008年の初作『Worldwide』で世界を震撼させたオーストラリア生まれのデス・セットが、3年の時を経てニュー・アルバム『Michel Poiccard』を発表した。

この間、オリジナル・メンバーであるボウ・ヴェラスコのオーヴァードーズによる死を受け、バンドは崩壊寸前の窮地に追い込まれたそうだが、その悲劇を乗り越えて届けられた本作は彼らの今後のキャリアにおいても忘れられないものになるであろう、タフな内容に仕上がっている。前作と単純に比較してもソングライティングはもとより、(数年前まで活動の拠点にしていた)ボルティモア時代からの旧友・トリプルエクスチェンジをプロデューサーに迎えて制作したサウンド・プロダクションなどさまざまな面でレヴェルアップ。ポップで奥深く、新しい可能性が随所に見て取れる。

「新作をありきたりのローファイ・サーフ・ポップにしたくなかった。それにはソングライトを重視して、少しリスクを冒す必要があったんだ。もちろんパンク好きが聴いたら違和感を覚える曲もある。でも、俺たちはそういう曲を作らなければならなかった。かなり辛い状況にいたからね」(ジョニー・シエラ、ヴォーカル/ギター:以下同)。

ボウの死は、恐らくバンドが経験してきたことのなかでもっともヘヴィーな出来事だったに違いない。事実、当時は活動を続けていく意味もわからなくなり、制作を断念しかけたこともあったという。

「そのほうが楽だと感じる瞬間もあった。けれど終わりにするのは悲しみや絶望を伴うわけで、デス・セットには無縁だと気付いたんだ。俺たちはメロディックでクレイジーなバンド。楽しい時間がすべてさ。だからこう決めた、〈とにかく前に進もう! そしてバンドの道程とボウの人生を祝福する最高の作品を作ろう〉ってね」。

そんな本作においてひときわ異彩を放っているのが、ボウの死をテーマにした“I Miss You Beau Velasco”。生へのエナジーや覚悟が濃縮された美しいナンバーである。

「1分間のエネルギッシュなパンク・ソングを作るのは簡単だけど、こういうスロウな曲には不安があった。でもそれは自然に起こった流れだったよ。この曲は悲しい曲で、冒頭はボウのリハビリ中、まだ希望があった頃に書いた。だけど、後半は希望を持てない時に書いたこともあって、俺にしては珍しくクリーンなギターからヘヴィーなギターへとスタイルを変えて、感情の変化を際立たせたんだ。ヴァースとコーラスの変化を表現するのは至難の業だけど、その変化こそ伝えたい部分だったね」。

もちろん、エクスタシーをキメていた時に制作されたという“Chew It Like A Gun Gun”、ツンデレなフランス娘をテーマにした初期ビースティ・ボーイズのような“I Like The Wrong Way”など、前作同様おバカでユニークなエレクトロ・パンク曲も満載。パンクの速さは生きるスピードであり、長さではなくその太さ、熱さがポイントという見方もあるが、ボウの人生もまさにそう。“We Are Going Anywhere Man”にもあるように、その死をメランコリックにフィーチャーするのではなく、ポジティヴなエナジーに転化させているのが、いかにも彼ららしい。

「この曲は当初〈We Aren't~〉というタイトルで、〈いろいろな困難があったけど俺たちはどこにも行かない。ここに残るんだ〉って意味合いだった。だけど、最終的には〈Are〉に変え、〈俺たちは好きなところに行くぜ〉っていうポジティヴなニュアンスにした。それがデス・セットの精神なんだ。いろいろなことを乗り越えたからこそ、俺たちはいま自分たちの可能性に自信を持っている。人が何と言おうとやりたいようにこれからもやっていくんだ」。

 

▼デス・セットの作品を紹介。

左から、2006年リリースのミニ・アルバム『To』(Rabbit Foot)、2007年発表のミニ・アルバム『Rad Warehouses Bad Neighbourhoods』(Morphius)、2008年作『Worldwide』(Counter)

 

▼『Michel Poiccard』に参加したアーティストの作品。

左から、スパンク・ロックの2006年作『Yoyoyoyoyo』(Big Dada)、ディプロの最新ミックスCD『Riddimentary』(Greensleeves)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年03月23日 15:14

更新: 2011年03月23日 15:15

ソース: bounce 329号 (2011年2月25日発行)

インタヴュー・文/井上由紀子