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インタビュー

Steve Khan

ラテンに接近するアイウィットネスの進化形

1970年代からジャズ/フュージョン界の重要人物としてその存在感を発揮し続けているギタリストのスティーヴ・カーンが、4年ぶりのリーダー作『パーティング・ショット』を発表する。アンサンブルの中心は、彼とベースのアンソニー・ジャクソン、ドラムスのデニス・チェンバース、パーカッションのマノロ・バドレーニャの4人で、カーンの全てのプロジェクトの中で最も評価の高い、アイウィットネスの続編とも呼べる作品だ。結成当初のアイウィットネスのドラマーは、昨年ザ・ヴァーブスを率いて来日した名手スティーヴ・ジョーダンで、カーン自身も「81年にアイウィットネスで最初にやったレコーディングは、人生の中で最も重要な音楽のひとときだった」と語るほどお気に入りのプロジェクトだったが、デニスも92年の『ヘッドライン』以来このバンドのドラマーを務めており、94年の『クロッシングス』や、マノロ抜きのトリオによるライヴ盤『スーツケース』といった作品を聴けば明らかなように、すでにこのプロジェクトに無くてはならない存在となっている。

ウェザー・リポートにも在籍したバドレーニャは幅広い音楽性を持つラテン・パーカッショニストで、アイウィットネスの音楽にはもともとラテンの雰囲気が漂っていたが、新作ではさらにマーク・キニョネスとボビー・アレンデという、ニューヨークのラテン界きってのパーカッショニストが加わっている。「ラテン音楽は子供の頃から大好きで、僕は何十年もの間、ラテンジャズのレコードを作りたかったけれど、その準備はまだ出来ていないと思っていた。でも、アンソニーにデニス、マーク、ボビーという以上の組み合わせは考えられない。マークとボビーは僕の過去のアルバムにも参加しているし、僕が真剣にラテン音楽の勉強を始めた頃、最初に習った先生でもあったんだ」ということで、新作はカーンにとってかなり印象深いアルバムになったに違いない。

「自分らしいことをやるために、〈アイウィットネス・ミーツ・ラテン・ミュージック〉みたいな音楽を目標にした」と語る彼は、オリジナル曲の他に「僕らにとって最も偉大な作曲家のふたり」というオーネット・コールマンとセロニアス・モンクの曲を取り上げたり、アルゼンチン・コンテンポラリー・フォルクローレの注目株であるアカ・セカ・トリオのアンドレス・ベエウサエルト(彼とはMySpaceで知り合ったとのこと)と、彼の恋人でもあり、共に音楽活動もしているタチアナ・パーハのヴォイスを加えたりと、様々な工夫を凝らすことで、聴き所の多いアルバムに仕上げている。

優れたインストゥルメンタリストによる緊張感あふれるインタープレイに、ラテン音楽の陽気で心の和む要素を巧みに取り込んだカーンの『パーティング・ショット』は、成熟の度を増し、より懐の広くなったアイウィットネスの現在の姿を余すところなく伝えている。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年05月19日 17:30

更新: 2011年05月19日 17:30

ソース: intoxicate vol.91 (2011年4月20日発行)

interview & text : 坂本信