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インタビュー

mito 『DAWNS』

 

クラムボンのベスト盤も話題となるなか、続いては初の自身名義でのソロ作を完成。これまでも音楽的な引き出しの多さを見せてきた彼だが、さて今回はどんな音に……?

 

 

脳内のイメージにフォーカスした作品

クラムボンのmitoが2006年に発表したソロ3部作は、それぞれ異なる名義で異なるスタイルのサウンドを提示した作品だった。しかしニュー・アルバム『DAWNS』は、初めて自身の名の下に送り出すアルバムであり、生のアンサンブルによる歌モノからインストのテクノまで、彼が持つ多様な音楽性を詰め込んでいる。

「デモを作っていったら、まとめるとか名義を分けるという次元の話ではなくなっちゃって。以前は、自分がどう見られているかについて若干は意識的だったと思うんですけど、そこを意識して何かに向かっていく必要性がもうないかなと。ここ最近はまったくプロットを立ち上げないで、とにかく出てくるものを組み上げていくという発想で作ってるんです。去年クラムボンで出した『2010』も、やりたい放題やった作品でしたけど、それでも受け入れてもらえた。じゃあ大丈夫かな……と勝手に(笑)」。

方向性を絞り込まない、フリーフォームでごく自然体のレコーディング。だがそれは一方で、自身の頭のなかで鳴っている音を精巧に具現化していく作業であり、彼にとっては初の体験だったという。

「クラムボンはメンバーが出してくるいろんなものをコーティングせずに組み上げる。そうすることで、当初のデモとはまったく違うものになっていくんです。そういうプロセスがおもしろいと思ってたんですよね。でも今回はあえて、あらかじめ持っているイメージにフォーカスした。僕はオタク気質なんで、脳内のヴィジョンをドットひとつから磨いていく作業は性に合ってるし、楽しめるんだなと」。

実際に楽曲を作り上げるにあたって、さまざまなアーティストを適材適所でキャスティング。「もう長いこといっしょにやってるので、レスポンスが早い」というtoeの美濃隆章が共同エンジニアとして深く関わっているのをはじめ、同じくtoeの柏倉隆史、コトリンゴ、agraph、Ametsub、益子樹(ROVO)などなど幅広い面々が参加している。さらに、細美武士(the HIATUS)や磯部正文が作詞を担当しているのも興味深い。

「細美くんにリリックを書いてもらった曲は、細美くんっぽくなかったですか(笑)? わかりやすい話なんですけど、そういうふうに頼みたい人が何にも考えずにスルスルと出てきたんです。自分だけで作るより、人にお願いしたほうがイメージしたものを早く実現できると思ったのかもしれない。特にリリックは英語詞なんで、意味合いを大事にしつつ、語感を音楽的に作用させられる人たちにお願いしました。自分はポップ・ミュージックが好きで、基本的には英語のものに親しんできた。そうすると、作曲家としては英語にしたほうがより音楽的に作ることができるんですよね」。

自身の持つイメージを丁寧に音像化していく。自分のなかのポップス観と合致させるため、音楽的な響きを重視するために英語詞を採用する——本作でmitoが取ったアプローチは、〈聴きたい音楽を作る〉というリスナー体質のミュージシャンのそれに近いように思える。実際に彼はノイズからアニソンまでを愛でる幅広い音楽リスナーだが、しかし『DAWNS』は個人的な嗜好を満足させるために生み出したものというわけでもないようだ。

「聴きたいものを作るという部分もあるとは思うんですけど……改めて考えてみると、もはや何らかの欲求を持って曲を作っているのかが定かでなくなってるんですよ。作曲が、生活の一連の流れと変わらない感じになっている。たぶん楽しいから曲を作ってるんだけど、〈(曲作りが)本当に好きなの?〉って訊かれたら〈あれ?〉って思っちゃう(笑)。それがわからなくなるくらい、自然に作ってる」。

 

スピーディーに理想の音を実現させる

バンド・アンサンブルや電子音がエモーショナルに躍動する前半から一転、後半にはストリングスやサックスが登場し、美しくも物憂げな風景が描かれていく。70年代のシンガー・ソングライター作品やスピリチュアル・ジャズにも似た手触りのある内省的なサウンドスケープは、“a pray”(祈り)と題されたピアノの独奏でたおやかに締め括られる。

「クラムボンの時もそうなんですけど、最初は開かれていて、だんだん内側へと入っていって、そこからまた一歩出るか出ないかというところで終わる。そういうドラマツルギーが好きみたいなんです。昔は意識的に別の流れを作っていったりしたんですけど、最近は自分の好みに抗わなくなってきた。“a pray”については、僕はクラシックとかピアノの素養がまったくないのにこういうエチュードみたいな曲ができたことに自分でびっくりしました。狐につままれたような感じ。僕の手に余るというか……こんな曲は二度と作れないと思います」。

ところでmitoと言えば、即興音楽に積極的にコミットするアヴァンギャルディストでもあるが、本作ではそうした志向は打ち出されていない。スタイルはさまざま、しかし彼のポップな側面を体現した楽曲のみが並んでいるという点において、『DAWNS』は一定のトーンを備えているように思う。

「インタヴューで訊かれて、初めて気がついたんですよ。なんで(アヴァンギャルドな音楽を)やんなかったんだろうって(笑)。自分のなかで整理して考えると、アヴァンギャルドな音楽って、それを行ううえでのテーマを固めることが必要だし、演奏スキルも上げなきゃいけない。不思議なもので、ポップスを作るよりも即興演奏のほうが準備が必要なんです。今回のソロは何も考えずに、〈こういう音が出したい〉と盛り上がってる時に、なるべくスピーディーに実現させていった。その速度が大事だったので、準備する時間が惜しかったんでしょうね。そうやって完成したものが、メロディーが重要な、ポップなものだった。そういうことが自分でも出来上がってみて初めてわかったんです」。

 

▼mitoの関連作品を紹介。

左から、FOSSA MAGNAの2006年作『Declaration of the Independence of the imagination and the Rights of Man to His Own Madness I』(ポリスター)、dot i/0の2006年作『Declaration of the Independence of the imagination and the Rights of Man to His Own Madness II』(Pヴァイン)、micromicrophoneの2006年作『Declaration of the Independence of the imagination and the Rights of Man to His Own Madness III』(Buzztone)、クラムボンのベスト盤『clammbon -warner best-』(ワーナー)、同『clammbon -columbia best-』(コロムビア)

 

▼『DAWNS』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

左から、toeの2010年作『For Long Tomorrow』(Machu Picchu)、コトリンゴの2011年のカヴァー集『picnic album 2』(commmons)、Ametsubの2009年作『The Nothings of The North』(PROGRESSIVE FOrM)、ROVOの2008年作『NUOU』(WONDERGROUND)、the HIATUSの2010年作『ANOMALY』(フォーライフ)、磯部正文の2010年作『SIGN IN TO DISOBEY』(トイズファクトリー)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年05月27日 23:38

更新: 2011年05月27日 23:38

ソース: bounce 332号 (2011年5月25日発行)

インタヴュー・文/澤田大輔