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インタビュー

André Mehmari

ジャンルを自在に横断しつつも、圧倒的なブラジル音楽

次から次へと新しい才能を生みだし続ける音楽の楽園ブラジル。その中でも、一際輝く異能として、ピアニスト/作曲家のアンドレ・メーマリはここ数年一部で熱い注目を集めている。去る4月、数ヶ所の小さな会場で行われた来日コンサートもあっという間に売り切れてしまった。生ピアノの完全独演なのだが、そのハーモニーの豊かさと楽想の多彩さは、ほとんど一人オーケストラとでも呼びたいようなものだった。来日に先立って日本盤も出た最新作『Afetuoso』も、ミルトン・ナシメントなどブラジルの作品だけでなく、シューマンもあればビートルズもある。ジャズ、クラシック、ポップス等様々なジャンルを自在に横断しつつ、しかしそこにあるのは圧倒的な〈ブラジル音楽〉。メーマリのそのような表現スタイルからは、誰しもエグベルト・ジスモンチを連想するだろう。実際メーマリ自身も、最も尊敬する音楽家としてジスモンチの名を挙げる。

「ジスモンチの音楽には、非常に高い精神性と純粋な創造性、そして、観光客向けではない、非常に深いブラジル性(ブラジリダーヂ Brasilidade)がある」

ちなみにメーマリもジスモンチも、父方がレバノン系で母方はイタリア系。そして共に、クラシックの専門教育を受け、若い頃からジャズの即興演奏も得意としてきた。最近は、バンドリンのアミルトン・ヂ・オランダとのデュオで、ジスモンチとエルメート・パスコアルの作品だけをカヴァーしたアルバム『gismontipascoal』も発表したばかりだ。

「ジスモンチはヨーロッパの文化的伝統をブラジルの土着の民俗文化と非常にうまく融合し、しかもそれをピアノという楽器に美しい形で適応させることに成功した。これは簡単なことではないと思う。彼の音楽はどうしようもなくブラジル音楽でありながら、同時にユニヴァーサルな普遍的音楽でもある。つまり、すべての人に対して語りかける音楽だ。僕が音楽に求めているのも、まさにそれなんだ。
ブラジル的であっても、ただのエキゾティシズムは求めていない」

そしてジスモンチと並び、言及しなくなてはならないのが、ミナスだろう。メーマリが最初期から最も頻繁にカヴァーしたり共演したりしてきたのが、ミルトン・ナシメントとセルジオ・サントスというミナス・ジェライスを象徴する新旧の音楽家。つまりメーマリの音楽とミナス音楽は、極めて親和性が高いのだ。

「ミナス音楽は、何よりもまずハーモニーが他のどの地域よりも豊かなんだ。ミナスはブラジルの中でほとんど唯一バロック時代の文化が受け継がれてきた地域であり、バロック音楽から独自の進化を遂げたのがミナスのハーモニーだと思うよ」

ちなみに、メーマリの自宅スタジオの名前は「モンテヴェルディ・スタジオ」というのだが、そのネーミングからもまた、〈ヨーロッパの伝統を継承・発展させたブラジリダーヂ〉という彼の志が伝わってくる気がする。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年07月07日 17:09

ソース: intoxicate vol.92 (2011年6月20日発行)

interview & text : 松山晋也