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インタビュー

ミドリカワ書房 『愛にのぼせろ』

 

ミドリカワ書房_特集カバー

 

[ interview ]

整形手術、中絶、親の性行為、ひき逃げ、ストーカー、いじめ、引きこもり……などなど。独特というひと言では言い尽くせないほどの視点で描かれた詞世界、しかし、それを至極ポップなサウンドの上で展開することによって類を見ないオリジナリティーを確立してきたミドリカワ書房。そんな彼が、このたびレーベル移籍……もとい、新装開店してお届けするのがニュー・アルバム『愛にのぼせろ』だ。ダンディーな佇まいで迫るジャケットのアートワークからしても新たな展開が容易に想像できる……う~む、これはちょっと放っておけない作品なんじゃないですか!?

 

モテなきゃ

──今回はレーベル移籍……もとい、新装開店ということでもありますので、若干〈はじめまして〉的なニュアンスで話を始めたいのですが、まず、ミドリカワさんが曲作りを始めたきっかけは何だったんですか?

「高校生ぐらいの時にギターを……まあ、始めますよね? で、ぼちぼちコードとか覚えていくと、自分でも曲が出来んじゃないかなあって思いはじめるわけですよ。たとえば、吉田拓郎の全曲集(スコア)みたいなのを見たら、自分の知ってるコードばっかなんですよね。曲ってこんなんで出来るんだ!って(笑)」

──そもそもギターを買ったきっかけっていうのは?

「ギターは……お年玉を何に使おうかなと思って、何かおっきな買い物をしようってギターを。まあ、そんなに良いギターじゃなかったですけど。まあ、やっぱりあの、ギター弾いて歌う人ってかっこいいなあっていうのがありましてね」

──当時のヒーローというと?

「(奥田)民生さんですね。あとはまあ、単にモテそうだなって。いまはどうかわからないですけど、当時はアコースティック・ギター持って歌ってるとモテる感じがありましたからね」

──で、ギターを始めて、結構早い時期からオリジナル曲を作るように?

「そうですね。でも、曲になってるようでなってないような……誰かの真似っこみたいな感じでしたね」

──それがいつ開眼したんでしょう?

「本をよく読むようになってからだと思いますね。それもまあ、モテなきゃって動機で読みはじめたんですが(笑)。インテリぶりたいというか……別に小説読むのがインテリだとは思わないですけど、読んでなきゃモテないなと思ったんですよね。でまあ、読んでるとおもしろいですからね、これを音楽に使えないかなと思って。昔のフォーク・ソングとか、ストーリー性のある歌が好きだったというのもありますし」

──“神田川”とか。

「あと、さだまさしさんとかね。そういうのっていまあまりないなと思ってやりはじめたのがきっかけですね」

──最初はどんなことを歌のテーマにしてたんですか?

「まあ、ガキでしたから、尾崎(豊)的なことだったかと思います。自由になりてぇ!みたいな(笑)」

──まあ、ある意味健全ですね(笑)。で、書いていくうちになんとなく方向性が定まって。

「ですね。それでまあ、レコード会社にデモをちょくちょく送ってたんですけど、拾われるきっかけになった歌はその後音源になった“ドライブ”(2007年作『みんなのうた2』収録)って曲なんですけど、それが初期の曲ですかね。録音機材なんか一切持ってなかったので、テレコっていうんですか、音の悪いカセットレコーダーで録って、チューナーも持ってなかったのでチューニングもヘンだし、歌もヘタだし(笑)。それを聴いたレコード会社の人もこれどうしよう?って思ったらしいんですけど、まあ、なんか捨てられないと。で、月日を経て、あっ、こういうやついたなって思い出して連絡をくれたみたいなんですよ」

 

トップの人が好き

 

──ミドリカワさんの曲は〈引っ掛かり〉が強いし、インパクトありますもんね。でも、不思議とアングラ感ってないと思うんですよ。

「いやもう、僕もそのつもりで。趣味趣向が王道ですからね。なんでもトップの人が好きというか」

──こないだの〈MIDO FES 2011〉(出演者はMid Children、浜田伸吾、YO-SING(緑心ブラザーズ)、谷村伸一など、ミドリカワ書房による〈なりきり〉アーティストたち)でバケてた人を見てもそうですよね。

「そうですね。〈あんたサブカルじゃねえか?〉ってよく言われたんですけど、なんかそれって心外だなと思ったり。でも、すべての人に届けたいかっつうと、届けたいつもりだったんですけど、考えてみるとお爺ちゃんお婆ちゃんにもわかるようには作ってないかなと思って。そう思うと、自分ってやっぱサブカルなのかなって、最近気付きましたね(笑)」

──でも、ミドリカワ書房のサウンドだけ抜き出すと相当ど真ん中のポップスですよね。

「どっかで聴いたことある感じかもしれないですけど(笑)」

──確かにどっかで聴いたことあるサウンドかもしれないけど、それを凌駕する詞の世界観が、ミドリカワ書房のオリジナリティーという。

「そう言っていただけると光栄なんですけど、なかには足引っぱるヤツいますからね。似てるぞ!って(笑)」

──それにしても、ただでは終わらない曲ばかりですよね。優しい音楽なのかと思ったら最後に落とし穴があったり、その逆で、すごくエグいテーマの曲なのかなと思ったら最後にほっこりとした気持ちにさせられたり。

「そりゃあもう、してやったりというか。なんたって娯楽ですからねえ。お金払ってもらってるわけですから、楽しんでもらわなきゃしょうがないと思って作ってますけど」

──ミドリカワ書房の歌詞は、生活風景を描写して世界を作り上げるというスタイルですけど、ちょっとした言葉やキャラ設定で情感を一気に膨らませてくれるところがニクいなと思うんです。あと、普通の人なら見過ごすようなところも描写してたり。

「悪く言えば素人くさいのかもしれないですね。歌の作り方を知らないのかも(笑)」

──いわゆるヒット曲作りの方法論は踏まえてないですよね(笑)。

「それ知ってればいいんですけど(笑)」

──で、見かけはイビツなんですけど、聴いたあとの感動は、スマートに作られた音楽と差はない……いや、むしろ美しかったり。

「あの、大瀧詠一さんの〈ロンバケ〉(『A LONG VACATION』)ってすごく綺麗なアルバムじゃないですか。でも、大瀧さんって、それ以前にむちゃくちゃなアルバムいっぱい作ってましたよね。それで〈ロンバケ〉でしょ。当時の人はびっくりしたでしょうし、あれで大瀧さんを知った人も多かったわけですよね。だから僕も今回は〈ロンバケ〉を作ろうかなと思ったんですけど……出来なかったですね(笑)。ああいう世界観の歌詞を書いてみようと思っても、どうも脱線していって(笑)。もうちょっと歳食ってからなんですかね、ああいうの作れるようになるには」

 

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掲載: 2011年07月13日 18:00

更新: 2011年07月14日 13:40

インタヴュー・文/久保田泰平