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インタビュー

RHYMESTER 『フラッシュバック、夏。』

 

それでも夏は来る……来た! 2011年の記憶を彩るために、RHYMESTERが4か月ぶりにやってきた! 三者三様の夏かしいオススメ曲もチェックしてね!

 

RHYMESTER_A

3月の『POP LIFE』から間髪入れずに届けられた、RHYMESTER初のコンセプト・ミニ・アルバム『フラッシュバック、夏。』。夏の刹那を切り取った甘酸っぱいノスタルジーを基調にしながらも、「サマー・ソングとして新しい書き方ができた画期的な曲」(宇多丸)と自負するタイトル曲、「〈サマー・メッセージ ・ソング〉みたいな変なジャンルの曲になった」(Mummy-D)と語る“サマー・アンセム”など、〈3.11以降〉のムードも踏まえた絶妙なバランス感覚はRHYMESTERならでは。

——今回のサマー・アルバムはタイトル曲の“フラッシュバック、夏。”ありきで始まったプロジェクトなんだよね? 曲自体は“Walk This Way”と同じタイミングで出来上がっていたとか。

宇多丸「いくつかシングル候補のトラックがあって、同時進行でいろいろ作業を続けていたんだけど、“Walk This Way”と“フラッシュバック、夏。”はちょうど同じ日に〈見えた!〉ってなったんだよ。〈この曲、両方ともいい感じでできる!〉って」

——まあ、結局は“Walk This Way”で決まったわけだけど。

宇多丸「でも結構迷った。“フラッシュバック、夏。”は秋や冬に聴いても大丈夫な曲ではあるからね。ただ、そのあとで〈だったらこれは来年の夏用に取っておかない?〉ってことになってさ。RHYMESTERにとってそういうのは初めてのアイデアだったんだけど」

——リリックはその当時のまま?

宇多丸「うん。でも例の震災があって、〈あのままの歌詞でいいのか!?〉っていうのは真っ先に考えた。ちょっと不吉なニュアンスが入ってる曲でもあるからね」

——東日本大震災を経たことでアルバムへの取り組み方にはどんな変化があった?

宇多丸「震災の2日後ぐらいに今後どうするかみたいな話し合いをしたんだけど……“フラッシュバック、夏。”はいいとしても、〈波〉とか〈海〉をリリックに使えるのかって話になってさ」

Mummy-D「〈海〉は全然アウトだろって当時は思ってたよね」

宇多丸「まだ震災から2日後だったからさ。だから、サブジェクト的にどう夏を歌うかが難しいなって話をしてた。あとは〈震災後感〉みたいなものをどこまで入れ込むのか……なかったことにするのはおかしいしね。それで、〈やっぱり作ろう!〉ってなった時に出た言葉だと思うんだけど、〈でも夏は来るんだからさ!〉って。2011年の夏に必要なサマー・ソングも絶対にあるわけだからね」

Mummy-D「結果的には“サマー・アンセム”の曲中で俺らの答えを出すことで気持ちが収まったというか。あの曲を作ったことで、何かしらの回答は出したって気分のなかで制作を進めることができたね」
宇多丸「それこそさ、“そしてまた歌い出す”なんて曲を歌ってる人たちが尻込みしてたらなんの説得力もないっていうかね。2011年に17歳の夏を迎えるコたちから〈調子こく夏〉を奪う権利はないよ!」

——『POP LIFE』からの連続性は意識した?

宇多丸「『POP LIFE』的な歌詞の書き方は普遍的というか……結構いいんじゃないかな?って気がするけどね、今後も(笑)。もともとヒップホップ・スラングばりばりってタイプでもないし、『POP LIFE』が特別変わった作り方をしたアルバムじゃないってことなんだよね。RHYMESTERの方法論を進めたらこうなるでしょって」

DJ JIN「作る時の姿勢はいままでとまったく同じだね。『マニフェスト』から『POP LIFE』ときて、そのあとで震災があって……そんななかでリスナーの人生に照らし合わせることができたり、彩りを与えることができたり、そういう曲を作れたらいいなとは考えてたかな。“Magic Hour”に関しては、染みるものが作りたかった。その人の人生に染みる曲……乾いた砂に水がじわじわ染み込んでいく、みたいなね」

Mummy-D「でも今回はいい意味で肩の力が抜けてるからね。ズルいことは全部やっちゃおう!ってノリがあったから、そういう意味では『POP LIFE』の真逆といえば真逆だよね。だって、夏っていうことでもうまとまっちゃってるんだからさ」

宇多丸「これってサマー・ソングって言えるの?って曲も入ってるしね(笑)。でも、曲ごとの機能がはっきりしてるのは〈『POP LIFE』以降〉な感じがするけどね」

——『マニフェスト』以降のRHYMESTERは前例のないペースで作品を作り続けてきているわけだけど、これは今後も継続されていくのかな?

宇多丸「このあとどうなるかはまだわからないけど、ポンポン作っていくのはいいなって思ったね。確かに大変なところもあるけどさ。やっぱりエンジンがずっとかかってるほうがいいよね」

DJ JIN「どんどん表現はしていきたい。あとミニ・アルバムって、いまのリスナーの感覚にフィットしてるよね。70分を超えるものをじっくり聴くよりも、さくさくっといい音楽を楽しむみたいなさ。何年かかけて録り貯めた音源を出す良さももちろんあるんだけど」

Mummy-D「ミニ・アルバムはとにかく楽! それは曲数が少ないからって意味じゃなくて、総括しなくていいっていうか、〈その時のこのことを歌おう〉みたいなことだけで出来ちゃうから。フルだとどうしても構えちゃうからね。あと宇多さんも含めて、それぞれが責任をもって曲を上げるのもいいなって思った。だからすげー楽しかったよ、今回は。悩んだ瞬間とか、ほとんどなかったね」

▼RHYMESTERの近作を紹介。

左から、2010年作『マニフェスト』、2011年作『POP LIFE』(共にNeOSITE)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年08月01日 22:08

更新: 2011年08月01日 22:09

ソース: bounce 334号 (2011年7月25日発行)

インタヴュー・文/高橋芳朗