SUPERHEAVY 『SuperHeavy』
スーパーな5人が集結してスーパーなバンドを結成し、スーパーなアルバムを作り上げた! スーパーな組み合わせ以上のスーパーなおもしろさを体感せよ
絶対に実現しないと思った
この音を聴いて心が躍らないなんてありえない。カッコイイ……より前に、おもしろい! 「そりゃ、おもしろいアイデアだとは思ったよ。でも、実現するとは思わなかった」とはミック・ジャガーの弁だが、スーパーヘヴィーのおもしろさとは、まさに実現しなさそうなことが形になってここに存在していることにある。
そもそも60代後半の英国人と50代後半の英国人と40代半ばのインド人と30代半ばのジャマイカ人と20代半ばの英国人女性というバンドの成り立ちからして相当おもしろいわけだし、5人のやってきた音楽がまるで違うのもおもしろい。それをゴチャ混ぜにしちゃおうという発想がおもしろいし、アルバムを作っていく過程がまたかなりおもしろかったようだ。で、歌い手が4人いること自体がおもしろいうえに、その絡み方と重なり方が自在にして柔軟で、ルールなんぞはまるでないようなのがおもしろい。何より当事者たちがほかの誰よりもこのプロジェクトをおもしろがっていたようで、それが音に表れているし、LAで行なわれた5人揃っての会見からもそのことが伝わってくるのだった。まとめ役で言いだしっぺでもあるデイヴ・スチュワートが、まずそもそもの思い付きを振り返る
「オレはジャマイカのセントアンのすぐ上に家を持ってるんだけど、そこでは日が沈む頃になるとあちこちのサウンドシステムが鳴り出して、いろんな音が一斉に聴こえてくることになるんだ。こっちの村からはベースのサウンドがループされてるのが聴こえ、あっちの村からは高音のヴォーカルが聴こえ、時には3つや4つのことが同時に起きていて。で、それがひとつに溶け合いだして、ビックリするようなサウンドになったりするわけなんだよ。〈おおっ、こりゃおもしろいな〉って思ってね。で、ミックに電話して、こういうことをやれないかなって話をして」(デイヴ・スチュワート)。
冒頭の言葉通り、ミックは「絶対に実現しないと思った」そうだが、「おもしろそう」なのでそのアイデアに乗った。そしてバンドの形にしていくうえでふたりが初めに誘ったのがジョス・ストーンだ。
「デイヴとはよく電話で話すんだけど、大抵、彼がクレイジーなアイデアを出してきて、私が〈いいわね。楽しそう!〉って返事をするっていうパターンなのよね。今回もそうで、電話でデイヴから〈ジョス、おもしろいことがやりたいかい? ミックとオレとでバンドを組むんだけど、来たい?〉って訊かれて、〈もちろん行きたいわ〉って答えて。で、いまこういうことになってるってわけ。最高におもしろかったわ。私たちはどんなものにも似ていないクレイジーな音楽を作ったのよ」(ジョス・ストーン)。
デイヴのそもそもの発想通り、レゲエの要素はこのバンドになくてはならないもので、だからデイヴとミックは続いてダミアン・マーリーを口説いた。ダミアンが振り返る。
「参加するまではほかの人たちの音楽をよく知らなかったんだけど、たくさんの偉大な音楽に触れることができたのは素晴らしい学習体験だったね。オレは普段、自分ひとりでやるから、今回のプロジェクトは何もかもが新鮮だった。これまでにいろんなコラボもしてきたけど、これだけ音楽性に幅のあるバンドに入ったのは初めてだし、みんなの仕事の進め方や作曲のアプローチの違いを観察するだけでもいい刺激になったよ」(ダミアン・マーリー)。
5人目の男として最後に加わり、結果的にバンドのキーパーソン的な役割を果たしたのは、「スラムドッグ$ミリオネア」をはじめとする映画音楽の作曲で知られるAR・ラフマーンだ。
「私は当時、たくさんの喪失を経験していた。親友が死んで非常に気が滅入っていたんだ。このプロジェクトへの参加は、そんな私にとって救いになった。これまでとまったく違う環境に身を置き、新しい音楽の創造に加わることが、自分にとっての救いにもなったんだ」(AR・ラフマーン)。
これ、どうなっちゃうんだ?
5人は早速スタジオ入りしたが、しかしその段階ではまだ曲の素材がまったくなかったそうだ。
「普通は何かしら持ってくものなんだよ。オレがいままで仕事した人たちもみんなそうだった。ところがこのメンバーで初めにスタジオ入りしたときは、いくつかのギターのリフと歌詞のカケラがほんのちょっとあっただけ。思わずデイヴに〈これ、どうなっちゃうんだ?〉って言ったのを覚えてるよ。ところが音を出しはじめたらすぐにグルーヴが生まれて、みんなから歌詞やメロディのアイデアが次々に出てきて……。エキサイティングだったよな。本当に素早く曲がどんどん生まれていった。初めの10日間で何曲出来たっけ?」(ミック)。
「10日で29曲だね。そのなかには1時間10分の曲とか40数分続く曲もあった。このレコーディング・プロセスの初めの段階は完全に熱狂的なジャムだったんだ。で、みんなが帰ってから、ざっと37時間分あった録音をオレとエンジニアで聴き返して、〈クソすげえ!〉って思ったよ。そこからバーンと浮かび上がってくるものがあったので、その部分を抽出し、またみんなで集まってそれをあれこれいじりながら形にしていった。まとまるまでにはなんだかんだで1年かかったけど、そのプロセスも含めて大いに楽しめたね」(デイヴ)。
ミックもまた、かつて経験したことのない制作プロセスとこのバンドのユニークな構造を大いに楽しみながら歌ったようだ。
「オレとしてはヴォーカリストが4人いるってことがまずおもしろかったな。普段やってるバンドではオレがほぼすべてを歌わなきゃならなくて……いや、それは喜んでやってることだから心配しないでくれたまえ(笑)、でもこのバンドだと全員のパートがあって、自分のパートを選ぶ必要があって、休む部分もあって、ハーモニーもやれる。これはヴォーカル・グループであって、オレはいままでヴォーカル・グループで仕事をしたことがなかったから、完全に新しい体験だったね」(ミック)。
メンバーたちの驚きや興奮がそのまま伝わるアルバム『SuperHeavy』。この音楽体験を言葉にするなら……やっぱとにかくおもしろい。それに尽きる!
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2011年09月21日 18:00
更新: 2011年09月21日 18:00
ソース: bounce 336号 (2011年9月25日発行)
構成・文/内本順一