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インタビュー

NERDHEAD 『BEHIND the TRUTH』



楽曲提供/プロデュース業で数々のヒットを飛ばすなか、自身のやりたいことを形にしたソロ・プロジェクトで新作を完成。個性の光る多彩な楽曲が眩しい!



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単純にポップなものが好き

So'Flyの中心人物にして、西野カナやAYUSE KOZUEなど数多くのアーティストの楽曲を手掛ける当代屈指のプロデューサー、GIORGIO“13”CANCEMI。彼がソロ・プロジェクト=NERDHEADとしてセカンド・アルバム『BEHIND the TRUTH』を完成させた。前作のリリース以降は、休息期間にあったSo'Flyの再始動があり、NERDHEAD自体もインディーからメジャーへと活動のベースを移行している。しかし、そうした状況の変化を経ても、NERDHEADの意味合いや、このプロジェクトでやるべきことは変わらないという。

「So'FlyはヴォーカルのTOKOと僕の2人で完結できるものなんですね。かつ、最終的に自分が帰る場所でもある。それに対してNERDHEADはいろんな人たちといっしょに何かを作る場所。〈アメーバ・ユニット〉なんて呼ぶスタッフがいますけど、実際にそんな感じで、形を変えながらやっていくプロジェクトなんです。とはいえ、そのアメーバには軸があるんですけど」。

その〈軸〉となるのは、自身の音楽的なベースでもあるヒップホップ/R&Bだ。トラックを制作し、さまざまなシンガーやMCを迎え、自身のラップも織り込む——至極真っ当にヒップホップ流儀の手法と編成によって、ほぼすべての楽曲が生み出されている。

「僕は日課みたいにCDショップへ通って、月に何十枚も新譜を買うんですけど、ヒップホップ/R&Bコーナーにしか行きません。それくらい聴くものは偏っていて。でも、そうやってピンポイントで聴いているジャンルのものがビルボードのチャートにガンガン入ってる。いまやヒップホップ=ポップスなんですよね。NERDHEADはサウンド的には向こうのメインストリームにハマるものだと思うんですけど、そういう意味で広くポップスとして受け止められてほしい」。

トラックリストに居並ぶフィーチャリング勢のなかでも、ひときわ目を惹くのは2曲でヴォーカルを務めるMai K.こと倉木麻衣だろう。先行シングルとなった“どうして好きなんだろう”はピアノとストリングスで織り成す壮大なバラード。NERDHEADとしてはかなり異色の仕上がりを見せている。

「コラボレーションの前例がない方なので、ダメもとでオファーしたんですけど引き受けてくださって。だったら自分がいちばん大事にしている曲じゃなきゃ失礼だと思って持って行ったのが“どうして好きなんだろう”だったんです。この曲についてはNERDHEADのカラー云々よりも、彼女が歌いたいと思える曲ってところが大事でした」。

かねてよりそのキャッチーなセンスに定評のあったGIORGIOだが、ヒップホップに首までどっぷりと浸かりながら、こういった情感に満ちた美しいメロディーを生み落としてしまえるのがおもしろい。

「日本には素晴らしいポップスがたくさんあると思うんですけど、勉強のために聴いたりはしないし、そんなことをしても何も入ってこない。好きなものを聴いていればいいし、好きなものを作らないと意味がないと思っているんです。僕は単純に、こういうポップなものが大好きなんですよ。ただ、そこにラップがないとつまんないなと思っちゃう。そこがポイントなのかなと自分では思うんですけど」。


自分で聴いててニヤッとしちゃう

そんなポップな気質はアルバム全編で炸裂しており、舞花や真崎ゆかを迎えた歌モノはもちろん、スポンテニアとのストレートなヒップホップ・チューンにも流麗なメロディーやハーモニーが注ぎ込まれた。一方で、バラード然としたナンバーであっても、そのバックには心地良いシーケンスが配されている。アップがあってスロウもある、といった具合に楽曲単位で大きなコントラストを作っていくよりも、むしろ1曲のなかに昂揚感のあるビートも浸れるメロディーも混ぜ込むスタイル。他では味わえない、彼ならではの個性をここに感じることができる。

「逆に言うと、それ以外のことはできないんですよ。いろんなスタイルの曲を揃えるとか、他の作家さんみたいに器用なアプローチはできない。でもわざわざあれこれやらなくてもいいっていうのが僕の考え方です。歌い手が変われば、もちろんおのずと変化する部分はあるわけで、〈それで良くね?〉みたいな(笑)。もっと言うと、プロデュース仕事とソロでもそんなに違いはない。もちろん別のことがしたければやればいいんですけど、僕の場合はやりたいことが同じ。ただそれだけなんです」。

自分が最高だと思えるサウンドだけを作り続ける。そうすることでしか生まれない説得力や勢いがアルバムには漲っているし、聴き手もただ無心にGIORGIO節を堪能することができる。そして彼の語る通り、楽曲ごとに登場するアーティストたちがGIORGIOサウンドの新たな側面を引き出しているのだ。“HEAT”だったらRED RICE(湘南乃風)のラガMCがこれまでにないグルーヴ感を作り出しているし、“キミアイ”はMaynard Plant(MONKEY MAJIK)の歌声がフォーキーな叙情を浮き彫りにする。

「それはもう皆さんのキャラが凄いってことなんですよね。自分で聴いててニヤッとしちゃうし、そういうところがNERDHEADをやっていて楽しいところなんです」。

突出したヒットメイカーにしてラッパーでありながら、決して〈俺が俺が〉と前へ出るタイプではないことは、その柔らかな物腰や控えめな言動からも窺える。実際、アクの強い音を排し、常に洗練されたサウンドに仕立て上げる点こそが、彼のプロデュースにおける最大の魅力だろう。しかし、端正な音像と相反するような存在感を常に放っているのが、その特徴的なビートだ。オールド・スクールやサウスものに通じるラフなビートが、流麗なNERDHEADの音楽をヒップホップたらしめているのだと思う。

「アレンジャーやプロデューサーがたくさんいるなかで、自分なりの個性をいちばん出せるのがドラムなんです。技術云々じゃなくて、ヒップホップをずっと聴いてきた、その蓄積なので。大抵の曲の主役は歌い手さんであり、メロディーであり、歌詞じゃないですか。でもドラムはこちらでコントロールできるところなんですよね。そこはプロデュースする時の、ひとつのポイントにしてます」。


▼『BEHIND the TRUTH』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

左から、舞花の2010年のシングル“心”、真崎ゆかの2011年作『LOVE SPACE』、スポンテニアのニュー・アルバム『The Beautiful Life』(すべてユニバーサル)、湘南乃風のベスト盤『湘南乃風〜Single Best〜』(トイズファクトリー)、10月26日にリリースされるMONKEY MAJIKのニューシングル“Headlight”(binyl)、BENNIE Kのベスト盤『BEST OF THE BESTEST』(フォーライフ)、EMI MARIAの2011年作『BLUE BIRD』(ビクター)、Ms.OOJAの2011年のシングル“ジレンマ〜I'm your side〜”(ユニバーサル)、SOULHEADの2011年作『JUMP UP THE WALL』(avex trax)

 

 



▼『BEHIND the TRUTH』の先行シングル“どうして好きなんだろう”(ユニバーサル)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年10月26日 18:00

更新: 2011年10月26日 18:00

ソース: bounce 337号 (2011年10月25日発行号)

インタヴュー・文/澤田大輔