インタビュー

TRIBES 『Baby』



 

「シンプルで、誰もが楽しめるロックンロールを作りたかった。年齢を問わず、みんなが関わりを持てるような音楽をね」。

そう話すのは、トライブスのソングライターでありフロントマンを務めるジョニー・ロイド。彼らのことを昨年の〈サマソニ〉で知った人もいるだろうし、先頃広く報道された女優・スカーレット・ヨハンソンのイマカレ(ギター担当のダン・ホワイト)がいるバンドとしてチェックした人もいるかも? ともあれ、この4人組の鳴らす音を聴いていると、久しぶりにUKに現れた〈シンプルなロックンロール・バンド〉という言葉が脳裏に浮かぶ。スッとする。

頭でっかちのコンセプト主導ではなく、マネージメントやレコード会社がメンバーを集めたバンドでも当然ない。幼い頃からの友達集団が、〈好きな音楽が周りにないから自分たちで作ろう〉という熱意のみで突き進んだバンドである。そもそもデビュー・アルバムのタイトルは『Baby』だ。この良い意味でヒネリのない直球な感じ、大好物なのは私だけではあるまい。

とはいえ、サウンドや音楽性、そして歌詞には単に〈熱意〉だけでは片付けられない渋みと旨みが詰まっているため、軽んじるなかれ。『Baby』に収録されている曲たちは、ミディアム・テンポで紡がれるなかに光と影、静寂と激しさ、胸にスッと染み入ってくるメロディーラインが多重構造で潜んでいる。カントリーやフォークの歌心と、アメリカン・オルタナ、特にグランジの演奏がいっしょになっているかのような味わい深さだ。

もっとも、ジョニー自身はグランジをあまり聴いていなかったというからおもしろい。むしろ彼の音楽志向のキーワードはジミー・ペイジとレッド・ツェッペリン。6歳の時にいきなり父親からギターをもらい、8歳でこれまた父親に『Led Zeppelin II』を聴かされたことが、ジョニーの人生を決定付けた。

「8歳の時に父がくれた『Led Zeppelin II』に完全にハマッて、ずっと聴いていたよ。聴きながらギターを覚えようともした。この一枚があったから音楽が好きで、バンドをやりたいと思うようになったんだ。自分が生まれる30年も前から活動していたバンドなんだけど、僕は『Led Zeppelin II』を聴いて育ったんだよね。で、僕の友達もみんな聴いていたんだ」。

まだ25歳の彼の口から出てくるのは、他にボブ・ディランやニール・ヤングらの名前。時空を超えて〈良い音楽〉とダイレクトに直結し、味わうことのできる世代だからこそ、「70年代のロックがこのバンドに大きな影響を与えていると思う」という言葉も、まったく奇異な印象を与えるものではない。それどころか、魂と音楽表現とが絡まり合っていたあの時代ならではの熱さを当然のものとして彼らが受け止め、自然に自分たちのサウンドに採り入れているからこそ、頭でっかちではなく、〈シンプルなロックンロール〉としての印象をこちら側に残すようにも思える。

ジョニーは曲作りについて、「書くことができないと気分が優れないもの」と話す。本作の収録曲は、友人だったウ・エ・ル・スイミング・プールのチャーリー・ハッドンの死や、長く付き合ったガールフレンドとの別れを契機に、短期間で書き上げたもののようだ。みずからの内なる葛藤をサウンドに昇華させ、聴いた人に感動を与える……そのプロセスもまた、音楽がシンプルなものだった時代を思い出させる。そしてハッとする——その方法論は決して過去の遺物ではないことに。21世紀のいまでも源の部分に不可欠のものを、トライブスはシンプルに高らかに響かせる。

 

PROFILE/トライブス


ジョニー・ロイド(ヴォーカル/ギター)、ダン・ホワイト(ギター)、ジム・クラッチリー(ベース)、ミゲル・デメロ(ドラムス)から成る4人組のロック・バンド。元オペラハウスのジョニーを中心に、ロンドンはカムデンで2010年に結成される。同年秋にファースト・シングル“Whenever”をリリース。クークスやピクシーズのサポートも含むライヴ中心の活動を展開する。2011年にアイランドと契約し、同年4月に『We Were Children EP』を、10月に『When My Day Comes EP』を発表。また、〈サマソニ〉や〈リーズ〉といった大型フェスにも出演して注目を集める。今年に入ってファースト・アルバム『Baby』(Island/ユニバーサル)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年02月04日 00:00

更新: 2012年02月04日 00:00

ソース: bounce 340号(2012年1月25日発行号)

インタヴュー・文/妹沢奈美