インタビュー

LANA DEL REY 『Born To Die』



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どこから話を始めたものか。昨年発表されたシングル“Video Games”たった一曲で、一大センセーションを巻き起こしたラナ・デル・レイ。NMEは2011年のベスト・トラックとベスト・ヴィデオにこの曲を選び、ポップ・シンガーなど普段はまず取り扱わないような硬派なメディアからロック評論家に至るまでが、諸手を挙げて賞賛した。カサビアンやジェイミー・カラムといったアーティストたちも、こぞってカヴァーを披露。もちろんアメリカ本国においても同様で、この1月には国民的TV番組「Saturday Night Live」に早くも出演を果たし、2曲を歌った。ミュージシャンなら同番組に出演するのがひとつのゴールとも言われているが、アルバム・デビュー前からゲストとして招かれるのは、何と約14年ぶりの快挙だという。

音楽的影響をエルヴィス・プレスリー、ブリトニー・スピアーズ、カート・コバーンらから受けたと語る彼女。11歳の時にニルヴァーナが“Heart Shaped Box”をTVで演奏するのを観て以来、カートとは恋に落ちたと明言する。

「死は芸術よ。私たちはポップ・ミュージックを使い果たしてしまった。ああいう健全な夢は死んでしまったのよ」。

過激すぎるとも思える発言だが、それもそう、デビュー・アルバムのタイトルに『Born To Die』と付けてしまう人である。ただのポップ・シンガーじゃないのは一目瞭然だろう。

アルバム全編を覆っているのは、悲しみに打ちのめされた空虚感と閉塞感。物質的に恵まれ、愛する人に守られてはいるが、内面は虚しさで押しつぶされんばかりという60年代のアメリカの主婦などの心情に彼女はチャネリングする。一見、平和な家庭に暮らしているようでありながら、ドラッグやアルコールにドップリ浸かっている主婦たちだ。運命に縛られ、逃げ出す術を知らない彼女たちは、男性の機嫌を取り〈愛しているわ〉と繰り返すことで自身の存在を繋ぎ止める。同様に、虚ろな瞳で〈愛しているわ〉と歌うラナ。そう呟けば呟くほど、逆に虚しさが浮き上がる。

そんな逃げ場のない悲しみを封じ込めた音楽をみずから〈ハリウッド・サッドコア〉と呼んでいるのだが、その作風は高校時代に彼女がコネチカットの寄宿学校に入れられていた経験とも無関係ではなさそうだ。

「外側は整っているけど、内側はめちゃくちゃ。だから寄宿学校を題材にした映画ってたくさんあるのよね。寄宿学校について世間で言われていることって、すべて本当なんだもの」。

話は変わるが、ヒップホップ界とも接点を持つ彼女。本作のプロデュースにはキッド・カディを手掛けたエミール・ヘイニー、カニエ・ウェストやジェイ・Zを手掛けたジェフ・バスカーらが主にあたった。トリップホップ風の細切れビーツ音の砂利道を踏みしめながら、その上をオーケストラと彼女の歌がフワフワと夢遊病者のように彷徨い歩く。デヴィッド・リンチ作品やモノクロ映画のサントラにも似た、朽ちた美しさも秘めている。

「いさかいには、どこか美しいところがあるわ。どんないさかいにもね。そして私は生きることの痛みを感じているの」。

通常のポップソングなら3分間のなかに起承転結が用意されている。だが、彼女の場合はアルバム一枚が終わっても、一向に出口は見当たらない。そう、出口のない人生をラナは完璧に演じ切ってみせるのだ。前述のTV番組では、陽炎のように佇みマイクを握る彼女のパフォーマンスが大バッシングを受けもしたけれど、本作を聴けばわかるはず。あの病的なまでに無表情なパフォーマンスと『Born To Die』、殺伐としたPVやアートワーク、すべてがひとつの線で繋がっている。



PROFILE/ラナ・デル・レイ


本名、リジー・グラント。86年6月21日生まれ、NY州の外れに位置するレイクプラシッド出身の女性シンガー・ソングライター。19歳の時にライロ・ラウンジのオープンマイクで歌ったのをきっかけに、歌手デビューをめざす。2008年にファーストEP『Kill Kill』をデジタル・リリース。2010年1月に自主制作盤『Lana Del Ray A.K.A. Lizzy Grant』を発表する。2011年、YouTubeにアップした“Video Games”のPVが話題を集め、UKのTV音楽番組「Later... With Jools Holland」に出演。同年12月に発表された先行シングル“Born To Die”がヒットを記録するなか、ファースト・アルバム『Born To Die』(Stranger/Interscope/ユニバーサル)をリリースしたばかり。

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掲載: 2012年02月15日 00:00

更新: 2012年02月15日 00:00

ソース: bounce 341号(2012年2月25日発行号)

構成・文/村上ひさし