こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

黒木メイサ 『UNLOCKED』



彼女はどこへ向かう? 挑戦の果てに開かれた新境地、そして解錠された本能——待望の新作に込められたメッセージを受け止めろ!!



黒木メイサ_A



インスピレーションを大事にした

初のフル・アルバム『MAGAZINE』をリリースして始まった黒木メイサの2011年は、例年にも増してハードワークな一年だった。特に上半期は映画やドラマの撮影で大忙し。映画「アンダルシア 女神の報復」のクランクアップを待たずに、月9ドラマ「幸せになろうよ」の撮影が始まり、すぐさま「ジウ 警視庁特殊犯捜査係」への出演が決まるというノンストップ状態。そんななかでも音楽制作には精力的に取り組み、4月に“One More Drama”、8月に“Wired Life”をシングル・リリース。下半期は、9月から翌月の初ワンマン・ライヴ・ツアーの準備を開始し、同時期に初のダブルA面シングルとなる『Woman's Worth/Breeze Out』の制作に着手、同作は12月にリリースされた。

そして、今回到着したニュー・アルバム『UNLOCKED』は、ツアー終了後の11月に海外に長期滞在していたときにタイトルを先に決定。12月に帰国後、グッとシフトアップして一気に作り上げたものだという。

「タイトルを先に決めて作るのは初めてだったし、ジャケット写真も先に撮ったんです。本当にイメージ先行でやってたから、レコーディングを始めたときは、ひとつひとつの楽曲が『UNLOCKED』の世界にまとまってくれるのかっていう不安がありましたね」。

とはいえ「一曲ずつのテーマや方向性とかはわかっていた」ということで、まずは一曲一曲の完成度を高めることに集中。すべての収録曲が決定し、曲順を考えたときにアルバムの全体像が鮮やかに浮かび上がった。

「私は基本的に直感型だし、最初のインスピレーションを大事にしたかったから、録り終えた曲を流し聴きしながらタイトルを見てバーッと並べてみたんです。そしたらね、意外と良かったんですよ、これが(笑)。〈あ、まとまってるじゃん!〉って思えた。これは『MAGAZINE』超えたなと(笑)」。

最近はRIP SLYMEのSU & ILMARIと共に客演したSTUDIO APARTMENTの新曲“ミス ユニバース”でもハジけたところを見せている彼女だけに、『UNLOCKED』ではポップさやキャッチーさが前作より飛躍的にアップ。トラックの質感はソリッドでエッジーに仕上がっているし、歌詞には遊び心や小悪魔感が溢れている。何よりメイサの歌声が明るくブリリアント。持ち味のキュートで高めな歌声や光沢感のあるトラックも相まって、全体のキラキラ感がハンパないのだ。

「黄色とかオレンジとか、筆にカラフルな液体をつけて壁にピシャ!とやった感じ。ペンキアートみたいな、ああいうイメージがありますね。ジャケットの色味もそうだけど、今回は明るくハジけたかったんです」。

キラキラ感がもっとも高いのは、BENIの楽曲の多くを手掛けるプロデューサー、D.Iと初めてタッグを組んだ“Flash Light”。非常にシャイニーなサウンドで、遊び心たっぷりの歌詞では〈ゴシップ誌に追いかけられるスター〉の日常が皮肉っぽく歌われている。

「〈本当みたいなただの憶測褒めてあげる〉っていう歌詞とか本当にそう思う(笑)。でも、たまに自分が可哀想になりますよ。わりとどこへでもすっぴんでジャージで行く人だったけど、どうせ撮られるんだったらメイクしとこうと思って、最近はご飯に行くくらいでもいちいちメイクして出ますから。どうせなら可愛く撮ってくれって(笑)」 。

この曲は、ビート感、世界観ともに初挑戦ということで「難易度が高かった」のだとか。何度も何度も歌い方を変えてレコーディングしたそうだ。

「曲を選ぶときに引っ掛かるっていうか、心のボタンを押される曲って結構タイプが決まってくるんですね。だけど、今回はいままでだったら選ばないようなものも〈歌ってみたい〉〈歌ってみよう〉って意識的に考えてた気がします。例えば“Flash Light”は新しい自分を見せられるんじゃないかなと思ったし、“S.O.S -ワタシサガサナイデクダサイ-”も、それとは違う意味で新境地を開拓できるかなって。初めての感覚でしたから、この曲も」。



いままでにない〈区切り〉

その“S.O.S -ワタシサガサナイデクダサイ-”は、メイサ初のドラムンベース、というか、ちょっと懐かしいジャングル・ビート風のナンバー。今回のアルバムは〈UNLOCKED(=ロック解除済み)〉というタイトル通り、束縛からの解放や自己啓発、前向きな現実逃避が多く歌われているが、そんなテーマをもっともストレートかつ刺激的に表現しているのがこの曲だ。いまの彼女自身の気持ちにもジャストフィットしたというこのナンバーからは、メイサの人間味も感じられる。

「この曲を作ってくれたカミ(カオル)さんも何かにキレてた時で、二人で〈そうだよね、わかる、わかる!〉って言ってて。〈S.O.Sなんて意外と言えないから〉って歌ってるけど、本当にわがままになって、人のことなんか気にせずにやっていけたらラクだねって、カミさんと言ってたんです。人に文句を言いたいときでも、自分の都合だけ考えて勝手にワーワー言えるタイプだったらすっきりできるのに、言ってしまったことで自己嫌悪に陥っちゃう。これはそんな自分に対するS.O.Sなんです」。

アルバムのタイトル曲として作られたという“LAST CODE”は、自分のロックを解錠する最後の暗号(=Last Code)の在処を提示する自己向上ソング。続く“Happy to be Me”は、〈自分を愛せないと他人も愛せない〉という彼女のモットーも綴られた、幸せな生き方の手引き書のようなナンバーだ。アルバムの最後に収められた“曖昧で贅沢な欲望”も人間の業の深さを日常的な言葉で歌った曲。「切なさと温かさがいっしょにある感じがした」と語る名バラードだ。

これまで表現してきたクールビューティーな世界に悪戯っぽい笑顔をプラスして、女性の心理や恋愛観、生き方をカラッとしたトーンで幅広く表現した『UNLOCKED』。そこには〈黒木メイサ〉というアーティストを媒体にしないと表現できない曲ばかりが収められている。アルバムの仕上がりに対する手応え、達成感は本人も十分に感じているようだ。

「今回はいままでより〈区切り感〉がハンパないんですよ。いい加減、エネルギーが切れてきてるのかも。いままでは携帯でいうと、〈あと一個で電池がなくなりますよ〉となっても、ちょっと寝てる間だけ充電して、また〈あと一個で電池がなくなりますよ〉みたいになって、っていう繰り返しだった気がするんです。いまはそろそろ電池自体が消耗してきて、電池ごと変えないといけない、みたいな感じ。でも、それって逆に言えば空っぽで、これから新しいものがまだまだ入るっていうことなので。次に進む方向はどんなことになるのか、そこは自分でも楽しみにしてるんです」。



▼2011年にリリースされた『UNLOCKED』からの先行シングルを紹介。

左から、“One More Drama”“Wired Life”『Woman's Worth/Breeze Out』(すべてソニー)

▼黒木メイサのアルバム作品。

左から、2009年のミニ・アルバム『hellcat』、2010年のミニ・アルバム『ATTITUDE』、2011年のフル・アルバム『MAGAZINE』(すべてソニー)

▼関連盤を紹介。

左から、『UNLOCKED』にプロデュース参加したD.I.の2011年作『room106』(rhythm zone)、同じくU-Key zoneの2011年作『U-Key zone presents Advent of UKZ』(Bran-New)、黒木メイサがゲスト参加したSTUDIO APARTMENTのニュー・アルバム『にほんのうた』(EMI Music Japan)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年02月15日 00:00

更新: 2012年02月15日 00:00

ソース: bounce 341号(2012年2月25日発行号)

インタヴュー・文/猪又 孝