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インタビュー

ROBERT GLASPER EXPERIMENT 『Black Radio』

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年02月22日 00:00

更新: 2012年02月22日 00:00

ソース: bounce 341号(2012年2月25日発行号)

インタヴュー・文/小川 充



かねてからクロスオーヴァーな作風を見せてきた野心的なジャズ・ピアニストが、さらなる実験と革新をめざして舵を切った。『Black Radio』から鳴り響くのは、ネオ・ソウルやヒップホップと結びついた新しいジャズだ!!



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開かれた別の世界

ブラッド・メルドーなどの世代に続くコンテンポラリーな気鋭ジャズ・ピアニストとして、ロバート・グラスパーの評価はすでに確立されている。しかし、彼を従来のジャズの枠組のみで語ることは片手落ちだ。ブルー・ノートに移籍して発表した通算2枚目『Canvas』(2005年)、その名を決定づけた傑作『In My Element』(2007年)は、ピアノ・トリオというジャズの普遍的形式によるものながら、たとえば後者にはJ・ディラの作ったトラックのメドレー“J Dillalude”があり、ハービー・ハンコックとレディオヘッドをミックスした“Maiden Voyage/Everything In Its Right Place”のように斬新な発想もあった。それこそが、グラスパーがジャズだけでなくヒップホップやロックも通過した新世代ピアニストと言われる所以である。「ジャズは過去の歴史に囚われすぎる傾向があって、僕はそれを変えたいと思っている」と語るグラスパーの冒険は、続く『Double Booked』(2009年)でさらに加速。そこではピアノ・トリオと〈エクスペリメント〉という新趣向のバンド演奏を並列させ、われわれの度肝を抜いた。

ロバート・グラスパー・エクスペリメントは2007年に始動したユニットで、グラスパー以下、ケイシー・ベンジャミン(サックス/フルート/ヴォコーダー)、クリス・デイヴ(ドラムス)、デリック・ホッジ(エレクトリック・ベース)という編成。グラスパーは以前から各メンバーと個別に共演したことがあったが、モス・デフのステージで音楽監督を務めた際に4人が一堂に会し、そこでグループ結成のヒントを得た。ここでのグラスパーはアコースティック・ピアノとフェンダー・ローズを併用し、よりヒップホップ方面へも踏み込んだ演奏を披露。ケイシー・ベンジャミンのヴォコーダー使いも特徴で、生演奏のなかにエレクトロニックな雰囲気を持ち込んでいる。

「みんなジャズもヒップホップも好きでやってきたから、たとえばエリック・ドルフィーからQ・ティップ、J・ディラからレディオヘッドといった流れで演奏するのも、僕らにとってごく自然なんだ。それぞれ独自の音楽のバックグラウンドがあり、そうしたものが合わさることによって、ソロとはまた違う別の世界が開かれていく。僕にとってエクスペリメントはそうした刺激のある場所さ」。



従来のジャズとは違う何か

そして、エクスペリメントでの初の単独アルバム『Black Radio』が完成した。これは同ユニットのアルバムであると同時に、多数のゲスト・アーティストとのコラボレーション集でもある。ゲストは過去のアルバムにも参加経験があるビラルとモス・デフのほか、エリカ・バドゥ、ルーペ・フィアスコ、ミュージック・ソウルチャイルド、レディシ、レイラ・ハサウェイ、クリセット・ミッシェル、シャフィーク・フセイン(サー・ラー・クリエイティヴ・パートナーズ)、ストークリー・ウィリアムズ(ミント・コンディション)と、USのヒップホップ/R&Bを代表する錚々たる面々。ジャズ〜ソウルを含めてジャンルレスに活躍する重鎮ミシェル・ンデゲオチェロ、注目の新進ソウル・コーラス・グループであるキングも参加している。ビラルはグラスパーのニュー・スクール時代からの盟友で、彼を起点にヒップホップやR&B方面への人脈が開かれ、モス・デフの音楽監督を務めたのもそんな繋がりからだ。参加するゲストは、そうした共演を通じて交流を深めたグラスパーの音楽仲間である。

「ジャズではないけど、それぞれの世界の開拓者のような人だし、ジャズとは違う世界にいる人といっしょにやることによって、従来のジャズとはまた違う何かおもしろいことができるんじゃないかと思って作ったアルバムだよ」。

また、「普段あまりジャズを聴かない人たちにも向けて、もっとポップでメインストリーム寄りのものを意識したアルバムだし、ジャズ・ファンとそうでない人たちとの架け橋になればいいなと思ってる。エクスペリメントとゲストによって、聴く人をいままで体験したことがない音楽の旅に連れていってくれるんじゃないかな」という『Black Radio』を象徴するのが、そのカヴァー・センスだろう。エリカ・バドゥの歌う“Afro Blue”はジャズの定番曲だが、他は違う。レイラ・ハサウェイが歌う“Cherish The Day”はシャーデー、同じくハサウェイのコーラスが入る“Smells Like Teen Spirit”はニルヴァーナ、ビラルが歌う“Letter To Hermione”はデヴィッド・ボウイのカヴァーである。日本盤ボーナス・トラック“Twice”のオリジナルはリトル・ドラゴンで、このなかでも近年となる2007年の曲だ。

「好きな曲をカヴァーしてるけど、いま僕がニルヴァーナを演奏するのと、昔コルトレーンが“My Favorite Things”を演奏したのとは、あまり変わらないんじゃないかな。当時の“My Favorite Things”はとてもポピュラーな曲で、別にジャズのスタンダードではなかった。時代によって楽曲の評価は変わるし、将来的に“Smells Like Teen Spirit”がジャズ・スタンダードになる可能性だってある」。

ヒップホップもR&Bもロックも飲み込んだ『Black Radio』は、ジャズを基盤としながら、もはやそうしたジャンルを超えた新しい地平を見据えている。そして、グラスパーはこれをきっかけに、さらなる音楽の冒険旅行に出発しようとしている。

「最近はホセ・ジェイムズのレコーディングにも参加して、恐らく新しいアルバムに入るんじゃないかな。それから、いろんな人が僕とフライング・ロータスを組ませたがってるけど、彼のレーベルのブレインフィーダーはおもしろい音楽を作ってるし、昨年のサンダーキャットのアルバムはとてもエキサイティングだった。近いうちに何かコラボができたらいいな。僕らは“Twice”も演奏してるけど、リトル・ドラゴンのユキミ・ナガノともやってみたいね。彼女の声がとても好きなんだ」。



▼『Black Radio』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

左から、シャフィーク・フセインの2009年作『Shafiq En' A-Free-Ka』(Plug Reserch)、エリカ・バドゥの2010年作『New Amerykah Part Two: Return Of The Ankh』(Motown)、レイラ・ハサウェイの2011年作『Where It All Begins』(Stax/Concord)、ルーペ・フィアスコの2011年作『Lasers』(Atlantic)、ビラルの2010年作『Airtight's Revenge』(Plug Reserch)、レディシの2011年作『Pieces Of Me』(Verve Forecast)、ミュージック・ソウルチャイルドの2011年作『Musiqinthemagiq』(Atlantic)、クリセット・ミシェルの2010年作『Let Freedom Reign』(Def Jam)、ミシェル・ンデゲオチェロの2011年作『Weather』(Naive)、ミント・コンディションの2011年作『7』(Caged Bird/Shanachie)、モス・デフの2009年作『The Ecstatic』(Downtown)

 

 

▼『Black Radio』に収録されたカヴァー曲のオリジナルを収めた作品。

左から、シャーデーの92年作『Love Deluxe』(Epic)、ニルヴァーナの91年作『Nevermind』(DGC/Geffen)、デヴィッド・ボウイの69年作『David Bowie』(RCA)、リトル・ドラゴンの2007年作『Little Dragon』(Peacefrog)

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