インタビュー

映画『世界最古の洞窟壁画 3D 忘れられた夢の記憶』 ──ヴェルナー・ヘルツォーク監督インタヴュー

ドキュメンタリーを越えて──鬼才が3Dで記録した史上最古のアート

フランス南部のショーヴェ洞窟には、世界最古の洞窟壁画がある。どれくらい古いかというと、ざっと3万年前。その想像を絶する最古のアートを、最新技術の3Dで撮影したのがヴェルナー・ヘルツォーク監督によるドキュメンタリー『世界最古の洞窟壁画3D忘れられた夢の記憶』だ。鬱蒼としたジャングルや火を噴く油田など、これまで様々な秘境をカメラに収めてきたヘルツォークだが、洞窟に初めて入った時の衝撃をこんなふうに振り返る。

「壁画を見て、突然、雷に打たれたようになったんだ。自分の魂を打ち貫くように、その壁画の美しさにすっかりやられてしまった。私は完全に打ちのめされ感嘆するしかなかった。そして次に感じたのは、これは絶対3Dで撮らなければいけないということだった。最初は3Dで撮影するなんて全く考えていなかったが、洞窟の隙間や突起など、その形状にドラマを感じた。そして、壁画を描いた人々はそのドラマを利用していたんだ」

しかし、3D撮影には多くの困難がともなった。壁画を守るために洞窟は厳しく管理され、中に入れるのは1日4時間。しかも、撮影に与えられたのはたった6日間だった。

「一度洞窟に入ったら、出るまで扉を開けることはできないし、幅60センチの仮設通路から一歩も踏み出しては行けない。すぐ横に太古の人々や熊の足跡が残っているからね。そうした状況のなかで、我々はプロフェッショナルに徹して撮影を進めたんだ」

そして完成した映画を観ると、洞窟の奥行きや壁画の立体感が生々しく浮かび上がり、壁画というアートの持つ呪術的な魅力に気付かされる。そして、さらに臨場感を高めるため、ヘルツォークは音響にも注意を払った。

「洞窟内は静まり返っていて、自分の心臓の鼓動が聞こえるほどなんだ。今回この映画のために音楽を作ったが(サントラを担当したのは、ヘルツォークの近作も手掛けるオランダの音楽家、エルンスト・レイスグル)、静寂のなかから音楽が立ち上がって次第に大きくなっていく。観客はそれによって、静寂と音について意識することになるんだ。私はいつも観客と驚異の感覚を分かち合いたいと思っているのさ」

これまでも〈驚異〉を通じて人間を追求してきたヘルツォーク。そんな彼にとってドキュメンタリーは、フィクション同様、事実を越えて真実に至る重要なアプローチなのだ。

「私はある種のドキュメンタリー映画の最前線にいると思う。いわゆるシネマ・ヴェリから離れていくものとして。事実を追い求める、という意味においてのドキュメンタリーから離れていくものとしてね。というのも、事実がすぐに真実をもたらすものではないからだ。真実を生み出すのは何か別のものなんだ。詩の世界でも映画の世界でも、ただの情報よりもずっと深いところで何かを訴えかけてくるものがある。単なる事実よりもね」

©2009 MENAGE ATROZ S. de R.L. de C.V., MOD PRODUCCIONES, S.L. and IKIRU FILMS S.L.

映画『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』

監督・脚本・オリジナル版ナレーション:ヴェルナー・ヘルツォーク
プロデューサー:エリック・ネルソン
撮影:ペーター・ツァイトリンガー
音楽:エルンスト・レイスグル
編集:ジョー・ビニ
日本語版ナレーション:オダギリジョー  
配給:スターサンズ (2010年 アメリカ=フランス)
◎3/3(土)TOHOシネマズ日劇、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか、3週間限定全国ロードショー
http://hekiga3D.com

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年03月02日 20:14

ソース: intoxicate vol.96(2012年2月20日発行号)

interview & text:村尾泰郎