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インタビュー

(((さらうんど))) 『(((さらうんど)))』



(((さらうんど)))_A
写真/江森丈晃



昨年、本名の鴨田潤名義で弾き語りアルバム『一』をリリースしたラッパーのイルリメが、今度はTraks Boysの2人、CrystalとK404と共に新ユニットを結成した。その名も(((さらうんど)))から360度、立体的に聴こえてくるのは、眩いばかりにフレッシュなポップソング。それはまるで、ヒップホップやエレクトロが幻想都市で溶け合って、シティー・ポップという蜃気楼を生み出しているみたいだ。

最初、イルリメがTwitterで〈ポップスのバンドをやりたい〉って呟いて、それに僕が反応して〈当方、鍵盤できます〉みたいなことを書いたら、すぐに電話がきて〈やろう〉ってことになったんです。それで2人で曲を作りはじめて、途中からK404が加わって」(Crystal)。

「誘われた時、〈オレ、楽器が一切弾けないけど大丈夫なの?〉って訊いたんですけどね(笑)」(K404)。

「はじめはバンドをやろうと思ってたんですよ。でもCrystalとやっているうちに、メンバーを増やすとまとめるの大変だな、と思いはじめて。それでK404を入れることにして、こういう音になったんです。だから1回外へ出てみたものの、また部屋へ戻ってきた感じ(笑)」(イルリメ)。

そんなこんなで、作曲はイルリメとCrystalが担当。トラックをCrystalが作り、K404がビートを打ち込んで、イルリメが歌を乗せる、というフォーマットが出来上がった。

「曲のイメージとして、結構日本のポップスを参考にしました。“サマータイマー”で言うと、ギタリストに渡す時にサザンオールスターズ“みんなのうた”を参考に挙げたりとか。あと最初の頃、Crystalからクラムボンの“SUPER☆STAR”っていう曲のデータと、〈これぐらい良い曲、作りたいよね〉みたいなメールがきたりして、なんか青春を感じましたね(笑)」(イルリメ)。

ほかには山下達郎の名も挙がっていたらしいが、本作では佐野元春“ジュジュ”をカヴァーしていて、これがオリジナルに負けない粋な仕上がり。かと思えば、Ahh! Folly Jet“ハッピーバースデー”の〈Diet KARAOKEヴァージョン〉のトラックを再構築した“冬の刹那”など、時には過去の名曲を引用しながら、どこか懐かしく、永遠に新しいオリジナルなサウンドを組み立てていった。

「アレンジ的には、いろんなネタを組み合わせて重層的に作りました。そこには日本のものに限らず洋楽もあるし、60年代のものとかもある。そういう元ネタを全然わからないレヴェルで引用して、クラブ・ミュージックとポップスを合体させてみようと思ったんです」(Crystal)。

「ビートに関しては、クラブ・ミュージックを作る時とは違った音色を使ってみたりもしましたね」(K404)。

とは言え、3人ともこれまでポップソングを作ったことはなく、ソングライティングも手探り状態だったらしい。

「気軽に扉を開けて入った世界なんですけど、ポップスって〈コード社会〉なんだと思いました。コード進行というのがあって、それに沿っていけば曲は出来るし、進行の仕方で作家の個性が決まる。結局、完全なオリジナリティーなんてなくてゲームなんだなって」(イルリメ)。

最近では即興で作詞作曲するトレーニングをしているというイルリメ。〈言葉と音の波間に耳を傾けながら/君のアイデアが僕に溶けるのさ〉(“Surround Island”)なんて歌詞そのままに、Traks Boysという強力なパートナーとアイデアを交換しながら、3人は〈ポップス〉という広大なアウェイに最初の一歩を踏み出したのだ。踊っちゃうくらい、軽快に。

「〈ポップス〉っていう枠だけあったら、そのなかで何でもやっていいというのが(((さらうんど)))だと思っているんです。例えばリズム・パターンにしても、アレンジにしても、録音方法にしても。ポップスという枠が広いぶん、どんどん自由にやりたいですね」(Crystal)。



PROFILE/(((さらうんど)))


ラッパー/シンガー・ソングライターとして活動するイルリメ(ヴォーカル/ギター)と、K404(PC/ドラムマシン)、Crystal(キーボード)から成るDJ/プロデューサー・ユニット、Traks Boysの3人組。2010年に結成され、同年夏には初の音源となる“サマータイマー”をフリー配信。年末にはレーベル、KAKUBARHYTHMの企画イヴェントにおいて、STRINGSBURN a.k.a. KASHIF(ギター)とアチコ(コーラス)を迎えた5人体制で初ライヴを行う。それから約1年間の制作期間を経て、上述のサポート・メンバーも全面的に参加したファースト・フル・アルバム『(((さらうんど)))』(KAKUBARHYTHM)を3月7日にリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年03月07日 00:00

更新: 2012年03月07日 00:00

ソース: bounce 341号(2012年2月25日発行号)

インタヴュー・文/村尾泰郎