eli walks 『parallel』
いったい、eli walksとは何者で、どうしてそう名乗っているのだろう。話はそこから始まった。
「12歳の時にギターを買いました。メタリカとかニルヴァーナが僕のバックグラウンドで、〈eli walks〉っていうのはもともと中学生の時にやっていたバンド名だったんですよ。打ち込みはまったく関係ない(笑)。ブリアルのインタヴューで読んだんですけど、〈人はキャラクターを知ってしまうと、その印象で音楽を聴いてしまう〉と。僕がこの名前を使ったのは、自分というものを隠して音楽をやりたかったから。そうすれば、もっと音楽に集中してもらえると思ったんです」。
と、のっけからメタリカとブリアルが並んで登場してしまい、少なからず驚きを覚えたのだが……改めて紹介しよう。eli walksは、ある音楽一家に育った青年によるソロ・プロジェクトである。〈フライング・ロータス以降〉のビートメイカーの一人と言っていいだろう。
10代半ばで日本のアーティストにポップソングを提供。若くしてすでに音楽の仕事をこなしていたが、マッシヴ・アタックをはじめとするトリップ・ホップ好きの姉と、バークレー音楽大学の学生で、ボーズ・オブ・カナダやエイフェックス・ツインを聴いていたというもう一人の姉——2人の姉に影響を受けてエレクトロニック・ミュージックにのめり込む。そして、〈もっと深く音楽を勉強したい〉という思いからカリフォルニア芸術大学に入学。
帰国後はショウの音楽やポップス制作の仕事を続ける傍らで、ビート・ミュージックの制作に没頭していたという。今回リリースされたファースト・アルバム『parallel』には、録り貯められた400以上の楽曲のなかから厳選された10曲のインストゥルメンタル・トラックが並んでいる。よく練られたメランコリックな旋律と、フロア向きの重心の低いベースとビート。リスニングとダンス、ポップとエクスペリメンタルの間を行き来する匙加減がとても絶妙だ。
「(バランスは)考えたというより、自然に作ったらこうなりました。日本に帰ってくる前に〈Low End Theory〉で、ノリやすい音楽なのにエクスペリメンタルなことをやっている人たちを観てきたので」。
やはりこの感覚はLA仕込みであったことが判明。では、トラックメイキングの際に、いちばん注意を払っていることは何だろう?
「メロディーやリズム、テンポ、雰囲気……音楽にはたくさんのレイヤーがあります。何にフォーカスするかは常に変化している。一時期はメロディーから作ることにハマっていたし。でもやっぱりドラムが好きです。ヴォーカルが入ってないから何かがリードしないといけないので、ビートはすごく大事。僕は自分の音楽をポップなものと考えていて、いつもリスナーを想定して作っています。例えばタワーレコードのリスニング・ブースで試聴された時に、1曲目から〈エキサイティング!〉と思ってもらえるものがいい。だから、いちばん初めに聴かれた時のことをまず考えます」。
言葉を選びなから、思慮深く答えを導き出す。楽曲も恐らく、こんなふうに作っているのではないだろうか。しかとコンポーズできる素地がありながら、〈最初のアルバムはすべて自力で〉と、シンガーやMCを迎えた歌モノやラップ曲にあえて向かわなかった点も大いに評価したい。最後に、初めてのアルバムを作ってみての感想を訊くと、とても素直な答えが返ってきた。
「〈Finally finished〉! やっと終わった(笑)。聴きすぎちゃって、とても客観的になれないですね。あそこは大変だったなとか、ここをもう少しこうしてればよかったのかなって思ってしまう。でも本当に満足してます。これまで長く曲を作り続けてきて、初めてeli walksとしての作品が完成したので、ホッとしています」。
PROFILE/eli walks
83年、US生まれのトラックメイカー。10代より日本で音楽制作の裏方を経験し、その後に渡米。カリフォルニア芸術大学でサウンド・デザイン/プログラミング/エンジニアリングを学ぶ一方、デイデラスとの共演などでキャリアを重ねる。2010年、プロキシマルのコンピ『Proximity One』にデッド・ウェイターと共作した“VI”を提供。ふたたび日本に拠点を移し、2011年はプレフューズ73の来日公演、〈Brainfeeder 2〉への出演で注目される。今年に入って、2月にwhite white sistersのリミックス盤『re:euphoriaofeuphobia』へ参加するなど活動の幅を広げ、〈フジロック〉への出演決定も話題となるなか、このたびファースト・アルバム『parallel』(MOTION±)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2012年03月14日 00:00
更新: 2012年03月14日 00:00
ソース: bounce 342号(2012年3月25日発行)
インタヴュー・文/南波一海