インタビュー

DJ KAWASAKI 『BLACK & GOLD』



ディスコ・クラシックを相手に、クリエイターとしての意地を見せたカヴァー集が完成! こだわりを尽くした楽曲の数々は必聴です!!



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ソウルフルなハウス/ディスコのメロウなさざめきを、デトロイト・テクノの閃くようなシンセの音で空へと打ち上げたアルバム『PARADISE』は、DJ KAWASAKIが新しいフェイズに突入したことを告げる作品だった。当然次はその方向性を拡張するものが出るかと思われたが、彼が完成させた『BLACK & GOLD』はなんと往年のディスコ・クラシックのカヴァー集。しかも師である沖野修也の命に反抗するほどの意気込みだったという。

「僕っていわゆるジャパニーズ・ハウスの流行った2000年代半ばの時期のイメージが先行していて、僕が古い音楽を通過しているところまで若いファンは知らない。だからDJセットのなかで生音のディスコを混ぜると、僕の曲目当てのお客さんが引いちゃう場面もあって、それで沖野さんにディスコ禁止令を出されていたんです。だけど、それだと僕のDJ心がうずく(笑)。そんななか、往年のディスコやファンクを中心にプレイするセオ・パリッシュのDJに改めて衝撃を受けて、沖野さんがいない時にこっそりディスコをプレイしていたんです。そこでお客さんを巻き込めるようになったのを沖野さんに示して、ディスコのカヴァーをやろうと提案したんです」。

一時とはいえ、自分のやりたいDJスタイルがオーディエンスにハマらなかったということは想像する以上に悔しい出来事だろう。しかし、そうした試練を突破したからこそ『BLACK & GOLD』は深くてキャッチーだ。黒いグルーヴと珠玉のメロウネスが、ディフェクテッドやステルスが圧倒的な勢いを持っていた2000年代初頭から中頃にかけてのヴォーカル・ハウス全盛期を彷彿とさせる躍動感で迫ってくる。

「ここ数年はエレクトロが全盛で、歌ものハウスって元気がなかったんですよ。そんななかでソウルフルな良い時代のハウスを融合して新しいものとして提示する、というテーマはずっとあった。ただ、どの曲も名曲すぎて本当に大変でしたね。“Going Back To My Roots”はリズム・イズ・リズム“Strings Of Life”の原点的なピアノ・リフがあるんですけど、そのニュアンスを変えたり、“Ain't No Mountain High Enough”ではマーヴィン・ゲイ&タミー・テレル版とダイアナ・ロス版の歌詞を合わせたりして差別化しました」。

そうした創意工夫をして培われた技術が大きく開花したのは、唯一のオリジナル曲“Let The Music Play”だ。ヴォーカルにはYouTubeで再生回数が500万回を記録したアップルガールとしても知られる韓国人シンガーのヨヒをいち早く起用。こうしたところにも彼の姿勢が反映されている。

「ヨヒさんは英語の発音も完璧で華もあるし、僕からオファーして、ちょうど彼女のデビュー前に実現した感じでしたね。DJってある種の水先案内人的な役割を担っていると思うんです。幸いにも僕はメジャーで活動している立場にあるので、これからも積極的にこういう方を紹介していきたいですね。大事なのは、ブレなくひとつのことをやり続けることだと思うんです。DJもやり続ければいつか届く日がくるし、そういった姿勢はより大事になっていく。だからこそ責任と覚悟を持って作品をリリースしていきたい。こういうことって何でもできるいまだからこそ、とても大事なことだと思うんですよ」。



▼DJ KAWASAKIの作品を紹介。

左から、2006年作『BEAUTIFUL』、2007年のリミックス&外仕事集『BEAUTIFUL TOO』、2008年作『YOU CAN MAKE IT』(すべてコロムビア)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年03月14日 00:00

更新: 2012年03月14日 00:00

ソース: bounce 342号(2012年3月25日発行)

インタヴュー・文/佐藤 譲

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