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インタビュー

ヘナート・モタ&パトリシア・ロバート

静かで有機的な音を紡ぎながら作り上げた大作『スニエ』

ミルトン・ナシメントをはじめ、素晴らしい音楽家を育んだブラジルのミナス地方を中心に活動するヘナート・モタ&パトリシア・ロバート。ボサノヴァ・テイストのMPBアルバムと並ぶ彼らのライフワークが、インドのマントラに美しいメロディを乗せた作品群。最新作『スニエ』は2枚組というボリュームで、それぞれの盤が〈バクティ〉、〈シャクティ〉と名付けられている。

「落ち着きたい時には、平穏や静けさなどがテーマの〈バクティ〉。陽気な気持ちになりたいなら、リズム感や力強さなどを表した〈シャクティ〉。〈陰〉と〈陽〉のように対極するものが合わさってひとつになるという考え方だから、どちらも欠かせない大事な要素なの」(パトリシア)

〈静かなる音楽〉という側面から、近年注目を浴びる穏やかな音世界。そういうとミニマムな編成で音数も少ないものを想像するが、彼らの場合は数多くのゲスト・ミュージシャンを招くことで、外に開かれた雰囲気も持ち合わせている。

「僕たちの音楽はとても有機的なんだ。実際、いろんな友人と一緒に演奏しているうちにどんどん発展していって、自分たちさえ驚くくらいに変化していく。なぜなら、音楽自体がこうなりたいという気持ちを持っていて、そのことを感じながら組み立てていくから。僕らにとって、このプロセスこそ音楽を作る喜びなんだ」(ヘナート)

去る5月に行われた前代未聞の静かなる音楽フェス『sence of "Quiet"』では、アルゼンチンのカルロス・アギーレとキケ・シネシ、そして日本の青葉市子らが、収録曲《Sat Narayan》を全員参加で歌い綴り、新しい命を吹き込んだ。

「マントラは短いフレーズを何度も繰り返す性質があるので、観客を誘い込む力がある。だから、ブラジルでもライヴではMPBよりマントラの方が大合唱になることが多いんだ」(ヘナート)

特定の宗教を信仰せず、彼らのようにヨガに傾倒しているわけでもない僕のような一般的なリスナーにも、自然にすっと体内に浸透していく声と楽曲の力は圧倒的。いつしかノスタルジックな旋律を口ずさみ、無垢な気持ちにさせられ、少し肩の力が抜けている。これこそ、いささか沈み込んだ今の日本が必要としているものではないか。

「〈スニエ〉とは、深く耳をすませることを意味するの。その深い部分とは自身の魂のこと。今の社会では、一度立ち止まって自分の内面を見つめることが大切だと思うわ」(パトリシア)

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年07月03日 12:46

ソース: intoxicate vol.98(2012年6月20日発行号)

取材・文 栗本斉(旅とリズム)