インタビュー

GAGLE×Ovall 『GAGLE × Ovall』



ヒューマニティーの鏡とも言える、それぞれのソウル、それぞれのヒップホップ──とある運命で結ばれた両雄が、初めてのアルバムに映し出したものは……



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Mitsu the Beats(DJ/プロデュース)、HUNGER(MC)、DJ Mu-R(DJ)で構成されるクルー・GAGLEと、Shingo Suzuki(ベース)、mabanua(ドラムス)、関口シンゴ(ギター)から成るバンド・Ovall。それぞれがJazzy Sport、origami PRODUCTIONSの看板アーティストたる両グループが、このほどユニットを結成した。「Ovallとはヒップホップの好みが近くて、そのへんもバンド・サウンドに落とし込んでいる印象。純粋に刺激を受けるし、DJとしてピックアップしたくなる楽曲が多い」というDJ Mu-Rの言葉は、お互いが抱く共感の一端。Hennessy Artistry主催のライヴ・セッションをきっかけとしたユニット結成に、「簡潔に言うと一方的な片思いがずっと続き、いきなり運命で結ばれてしまった感じでしょうか」とmabanuaが笑えば、関口シンゴは「セッションもみんな気持ちが入っていたし、〈この一度で終わりたくない〉という空気を周りが察してくれた」と言う。そうして完成した初作『GAGLE×Ovall』は、そんな思いの共有が作らせたものだ。「全体のコンセプトより、〈こういう曲を作りたい!〉という提案を繰り返して出来た」とHUNGERが語るように、本作はそれぞれが居を構える仙台〜東京間の細やかなやりとりを通じて制作された。

「制作工程はヒップホップ的。Mitsu君やmabanua、自分のデモ・トラックを元にOvallでレコーディング・セッションをして、その後セッション・ファイルをエディットしたり、HUNGERのヴォーカルを元にトラックを作り込んで、生演奏に差し変えてもう1回エディットしたり。アレンジ面では随所にHUNGERのアイデアが散りばめられています」(Shingo Suzuki)。

「曲作りでは、それぞれが一人では突っ走ってしまいがちな部分をうまく纏めてもらえるというか、自分にないものを引き出してもらって。やはり演奏とサンプルのバランスには気を遣いました。あとはエディットですね」(Mitsu the Beats)。

HUNGERがOvallの美点と評する「ドラムを中心としたリズムのタメの解釈と、メロの絶妙なバランス」は、本作のサウンドにおいても揺るぎないキモ。そこに〈GAGLEとOvall、自分とお客さん、自分と住む街〉といった〈関わり〉を全体でイメージしたという彼のリリックが重なることで、『GAGLE×Ovall』という作品は成り立っている。Ovallによるしなやかなバンド・サウンドと、GAGLEの要素ともなるラップ、サンプリング、スクラッチ……それらをさまざまな手法でかき混ぜることでメンバー全員を納得させられる音とグルーヴに昇華しつつも、今作にはセッションの延長たるゆるやかなムードがある。「本当に自由度が高くて、大丈夫かなってくらい(笑)」と関口シンゴが語るのも、「自分たちの自然体の音楽が詰まっています」というShingo Suzukiの言葉も、その所以だろう。

「トレンドに左右されず、やりたいことをやりたいようにやった。その伸び伸びとした感じが伝わると嬉しい」(mabanua)。

人柄を含めて認め合った彼らに続きを見い出すとすれば、今後予定されるライヴの先にそれはある。さらにはMitsu the Beatsとmabanuaの共作アルバムや、Ovallのメンバーの各ソロ作が出てきそうでもあることだし、今回の共作をどんな糧としたかは追々と形になってくるだろう。



▼GAGLE関連の作品。

左から、GAGLE作品のみで構成された2010年のミックスCD『SOREIZEN 〜mixed by DJ Mu-R〜』(Knife Edge)、DJ Mitsu The Beatsの2012年作『Beat Installments』(Jazzy Sport)、HUNGERが参加したeijiの2012年作『On the Beach』(WATER BAWL)

 

▼Ovall関連の作品。

左から、2011年のミニ・アルバム『Heart Fever』(origami)、vusikの2012年作『silent rain, silent sea』(NATURE BLISS)、Shingo Suzukiが参加の8月8日にリリースされる七尾旅人のニュー・アルバム『リトルメロディ』(felicity)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年10月02日 15:15

更新: 2012年10月02日 15:15

ソース: bounce 346号(2012年7月25日発行)

インタヴュー・文/一ノ木裕之

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