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インタビュー

石橋英子

石橋英子(中央)、もう死んだ人たち:(左から)須藤俊明、山本達久、ジム・オルーク、波多野敦子

ジム・オルークら、辣腕メンバーとともに作り上げた新作

シンガー・ソングライター石橋英子の4作目となるアルバム『imitation of life』は、ジム・オルークをプロデューサーに迎え、前作『carapace』の路線を引き継ぐ、イマジナティヴで美しいプログレッシヴなポップス作品となった。前作と異なるのは自身のバンド「もう死んだ人たち」(ジム・オルーク、須藤俊明、山本達久、波多野敦子)でバックをしかと固めたところ。バンドで録音することをあらかじめ想定して楽曲制作に着手していったのである。

「最初に《fugitive》の弾き語りみたいなものを作ってライヴでバンド編成でやってみたら、このメンバーでやるとこんなに曲が膨らむんだなってことがよく分かりまして。このバンドでやりたいことを私がなんとなく思い描いていて、ライヴのたびに新曲を持って行こうということを自分で決めたんですね。前はそういう作り方はしなかったんですけど、今回はプロ・トゥールスでミディ音源も使って、細かいアレンジを決めて、みんなの顔とかを思い浮かべながら、脚本を書いていくような感じで曲を作っていきました」

その結果生まれたのは、テンポ・チェンジや変拍子が次々と、しかしごく自然に繰り出される、先の展開が読めないじつにマジカルな音楽だった。その自由な発想はどこからきているのだろう。

「私がそもそも昔の60〜70年代の音楽が好きなんですけど、そういう音楽って普通にあったなって。今回のアルバムはジェネシスとかの影響が結構大きいと思います。ピーター・ガブリエルがヴォーカルのときの。だから変拍子とか不思議なコード・プログレッションの音楽があっても別に変だと思わなかったというのがまずあるのと、あとは、あまりそういう意識で作ってないんですよね。変な曲を作っているというよりは、こういうすごいメンバーが集まっているので可能性を最大限に試してみたい、いろんな音楽の枠から離れて自由に考えチャレンジしたいというのがあって。リズムの構築とかコードが展開していく感じとかテンポ・チェンジも含めて。だけどそれでも強い曲っていうか、強いメロディがあったり、強いフレーズがあったりするものをやっぱり作りたくて、そういうふうになっていったのかもしれないですね」

枠をできるだけ取り払って描かれた下絵に対し、しかと対応して実際に形にしてみせたプレイヤーたちはやはりすさまじい。なかでも印象的なのは波多野敦子による弦楽器の演奏。ジムがアレンジした《long scan of the test tube sea》の一曲を除いては、石橋が波多野に相談しながら構成を決めていったという。石橋はピアノからドラムまでこなすマルチプレイヤーとしても知られているが、弦の扱いはいかにして学んだのだろう。

「いや、やったことなかったんです。でも去年Spangle call Lillilineのリミックスをやる機会があって。そのとき、ストリングスの編集がめちゃくちゃ楽しかったんですよ。その経験が生きたのかもしれないです。どういうふうに重ねていったら面白い効果があるのかとか実験していたので。クラシックの人からしたらちょっと変わってるように思われるかもしれないけど(笑)。あとはロックの文脈でのストリングスはどんな感じだろうと思って、ピーター・アイヴァースだったりコックニー・レベルだったり、昔のソウルとかもいろいろ聴いて少し勉強しました」

シンガー・石橋英子としての側面も聞いておきたい。以前から自身をシンガーだとはあまり考えていないという趣旨の発言をしているが、やはり今回もそうなのだろうか。他では得難い、柔らかくて清らかな声をしていると思うのだが──

「もっとうまく歌えたらいいなって思います。恥ずかしがり屋なので、歌うことはやっぱり、いまだに……。ただ今回はバンドと一緒にライヴもやっているので一人で歌っているときよりは気楽です。フィクションっぽいし、歌詞もそんなに歌いにくいわけではないんですけど……でも、それでもマイクに向かって歌うのは抵抗ありますね」

では別のシンガーを立てるのはどうかとたずねると、こんな答えが返ってきた。ウィットに富み、あまりに素直で、同時に、音楽家としての矜持に溢れる石橋らしい回答だと思った次第。

「でもね、それはまたちょっと違くて、下手でもこれは自分が歌わなきゃいけないなって思うん
ですよね。人に歌ってもらうことを考えたならば、それを最初から設定して作らなければいけないと思うんです。もちろん、自分の代わりに誰かが歌ったら違うものとしていいものになるかもしれないけど、それはまた別のものになっちゃうというか。これは自分が表したいようにやると思っているから、しょうがないけど自分が歌うしかないですよね。まあ、練習しろっていう話なんですけど……。でも歌うことが好きじゃないから練習しないんですよね、結局」

石橋英子 with もう死んだ人たち(ジム・オルーク、須藤俊明、山本達久、波多野敦子) タワーレコード新宿店インストアライブ&サイン会
7/22(日)15:00
会場:タワーレコード新宿店屋上

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年07月09日 18:55

ソース: intoxicate vol.98(2012年6月20日発行号)

取材・文/南波一海

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