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インタビュー

クリスティアン・ベザイデンホウト

音楽の時間を美しく制御する〈身振り〉の雄弁

モーツァルトの鍵盤作品を、彼が生きた時代の〈フォルテピアノ〉で聴く喜び。音色も繊細かつ多彩なこの楽器でいま聴くべき奏者は間違いなくクリスティアン・ベザイデンホウトだ。79年南アフリカ生まれ、続々と登場する録音には外れなく、目下進行中のモーツアルト:ピアノ作品集も素晴らしい。ソナタにロンドや幻想曲、変奏曲を組み合わせた選曲は一夜のリサイタルのようでもある。──去る5月も王子ホールのオール・モーツァルト・プログラム第1夜で第3集と同じ曲を弾き、第2夜では今後発売される予定の第4集と同じ演目を聴かせてくれた。その自在な表現は多彩で新鮮! 鍵盤に幸福が躍り、心の翳りは豊かに深い。

「僕が師事したマルコム・ビルソンのレッスンでモーツァルトのソナタを勉強していた時でした。ある箇所で彼の弾く音楽が劇的な変化をみせた。しかし楽譜上は特にそういうわけでもない。と、彼は『ここは新しいジェスチャーの始まりだから時間をかけて変化を感じなければ』と言ったのです。それは、オペラの舞台で歌手が状況の変化を身体でも表現しているかのようでもありました。──いい演出のオペラには、現実の流れとは別の伸縮する時間がある。それには演者の動作など身体表現が大きな役割を果たしているし、動作をいかに制御するかで表現の説得力も変わってくる。我々器楽奏者がやっていることも同じ。ただ音を出すだけでは、つまらない演奏になってしまう」

彼が響かせる多彩豊穣な音楽の、自然に歌い演ずるような吸引力。彼は鍵盤以外にトラヴェルソも習っていたそうだけれど「木管も呼吸と密接な関わりを持っていますし、音色を繊細に感じることができる。他の楽器を演奏することは自分の楽器の問題点を克服するヒントになりますね!」と笑う。呼吸、動作、歌唱表現への探究……彼がマーク・パドモアと共演したシューマン《詩人の恋》など歌曲録音でも素晴らしい演奏を聴かせてくれるのは当然だろう。「彼とはベートーヴェンやハイドン、モーツァルトの歌曲を録れます。美声のキャロリン・サンプソンとも。ドイツ語歌唱も素晴らしくメンデルスゾーンなどいいですね」

そしていよいよモーツァルトのピアノ協奏曲録音も登場。フライブルク・バロック・オーケストラとの収録は既に完了、楽団も絶賛し継続も強く勧められているというから期待大だ。「いずれベートーヴェンも、と準備しています」と朗らかに語る彼の新録音、わくわくとお待ちしたい。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年07月20日 13:09

ソース: intoxicate vol.98(2012年6月20日発行号)

取材・文:山野雄大