インタビュー

石崎ひゅーい 『第三惑星交響曲』



空虚感を抱えた強烈な言葉と、空高く舞い上がるメロディー──生き方と背中合わせの音楽を発信する注目のニューカマー!



石崎ひゅーい_A



まずは、その声。独特の揺れを持ったややハスキーな声質で、感情のままに歌う声が聴き手の胸の内と共鳴する。時折聴かせるシャウトは猛烈だが、それは地元・水戸市で高校時代に組んでいたハードコア・バンドの名残りだろう。石崎ひゅーいは14歳の時からずっと、ヴォーカリストとしての道を歩み続けてきた。

「先輩のCOCK ROACH(2005年に解散)が作ったシーンにモロに影響を受けて、暗い世界観のハードコアをやってました。それからレディオヘッドやU2みたいな音に日本語を乗せるギター・ロックになって、それでずっとやってたんだけど、売れなくてダメになって、煮詰まって……そして須藤さんという人に出会って、自分を解放できるようになったんです」。

〈須藤さん〉とは、かつての尾崎豊をはじめ、多くのアーティストを手掛けた音楽プロデューサー・須藤晃。現在の石崎ひゅーいを精神的かつ音楽的に支える、重要な存在だ。……が、そもそも彼の音楽性を運命付けている大きな人間が、一人いる。デヴィッド・ボウイの息子・ゾーイにあやかった名前を授けてくれた、ロックが大好きだった母親だ。

「母親がくれたもの、母親に対しての思い、その全部が僕の根っこになってます。“第三惑星交響曲”は、亡くなった母親に向けて書いた曲で、これでデビューしたいとはひと言も言ってないんですけど、自然とこれが表題曲になって。それも何かあるのかなと思ってます」。

デビュー・ミニ・アルバム『第三惑星交響曲』に収められた全5曲のメロディーと歌詞、サウンドのヴァリエーションは幅広い。煌めくダンス・ビートに乗って切ないメロディーが飛翔する“第三惑星交響曲”。弾き語りのピアノ・バラード“ひまわり畑の夜”。メロディアスに疾走するロック・チューン“3329人”。端正な打ち込みがメランコリックな想像を掻き立てるスロウ・ナンバー“人間図鑑”。うねるヴァイオリンの響きが、ダークな曲想をドラマティックに彩るロック・バラード“僕はサル”。どの曲にも、現実に起きた何かが心のスイッチを押し、その衝動が歌になる瞬間が刻まれている。つまり、生き方と音楽がくっついているのだ。

「くっついちゃってますね。“3329人”は震災後の5月の自殺者数で、TVで観た時に衝撃的な数だなと思って。その時に曲を書こうという気持ちはなかったんですけど、あとからワーッて言葉が出てきた。“僕はサル”もそうで、自分に対して問いただしてる曲ですね。あの頃は暗いニュースが多くて、それに対して自分は何もできないという、モヤモヤした思いがあったから。曲を作った時、自分はこういう気持ちだったんだなと思いました」。

どの曲にも共通するのは、悲しみ、切なさ、空虚感などの重い感情を一旦地面に置き、そこから空高く舞い上がるメロディーの飛翔感と、その向こうに見える希望を描く言葉のイメージだ。特に“第三惑星交響曲”における母親の死に対しての描写が、美しい星空のイメージと重なり合うシーンは、一度聴けば忘れられない強い引力を持っている。とはいえ現実のひゅーいはとっつきにくいわけでもなく、〈近未来の夢は?〉と訊くと「100万枚売ること」と、アッケラカンと答えるお茶目な男だ。が、〈そのためにはどうしたらいい?〉と重ねて問うと、少し考えてから真っ直ぐな言葉を返してくれた。

「すごく純粋な、人間らしいものを作っていく、ということだと思います。そういう歌がたくさんの人に届いたらおもしろいと思うし、そこを信じる力をどんどん強くしていきたい。そしていつか、トム・ウェイツみたいになりたいですね。歌っただけでその人の人生がわかっちゃうみたいな、そういう人になれたらいいなと思います」。



▼関連盤を紹介。

左から、2012年に40周年記念盤がリリースされたデヴィッド・ボウイの72年作『The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars』(RCA)、トム・ウェイツの2011年作『Bad As Me』(Anti-)

 

▼須藤晃の関連作品を一部紹介。

左から、浜田省吾の80年作『Home Bound』(ソニー)、尾崎豊の83年作『十七歳の地図』(ソニー)、トータス松本の2010年作『マイウェイ ハイウェイ』(ワーナー)

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掲載: 2012年08月25日 00:30

更新: 2012年08月25日 00:30

ソース: bounce 346号(2012年7月25日発行)

インタヴュー・文/宮本英夫