MUMFORD & SONS 『Babel』
2009年10月にファースト・アルバム『Sigh No More』が放たれた時、こんなことになろうとは誰が思っただろうか。平均年齢20代半ばになるかならぬかの4人組、マムフォード&サンズが鳴らす躍動感に満ちたトラディショナル・ロックは、今日もどこかで大合唱を巻き起こしている。
ノア・アンド・ザ・ホエールやローラ・マーリングらとロンドンの新世代フォーク・シーンを形成していた彼らのデビュー作は、本国やヨーロッパのみならず、オーストラリアやアメリカでも大ヒット。現在までに800万枚のセールスを記録し、グラミー賞では2年間に6部門でノミネート、今年のブリット・アワードでは〈最優秀アルバム賞〉を獲得している。この2年以上に渡るロングセラーもあって彼らは時の人になったが、本人たちは至って冷静。
「たぶん外から見ているほうがクレイジーに感じると思うよ。案外、台風の目のなかは静かなものさ」と語るのは、メンバーのベン・ロヴェット(発言:以下同)だ。
「最初200人だった観客が、次は2,000人人、その次は3,000人……って。そして初めて行く国がだんだん多くなった。でも、本当にあっという間の出来事で、気がついたらそうなっていたという感じ。別に〈Rock And Roll Circus〉的な華やかなものでも、いきなり忙しくなったというのでもない。休みなしにツアーするのは、僕らとしては最初からあたりまえだったからね」。
それでも、ツアーの規模が大きくなりはじめた頃には少し戸惑いがあったことも隠さない。
「体力的にキツかったしね。でもわりと早い段階で対処法を覚えたと思う。ツアー先での親密な人間関係のなかで、うまくお互いの距離を保つことが鍵だったかな」。
そうして順調にこなしたツアー後、セカンド・アルバム『Babel』のレコーディングにおいて彼らを悩ませたのは、まさにそのツアーのメンタリティーから脱出することだった。
「ツアー・モードにキリをつけて、腰を落ち着けてレコーディングの作業に集中するまでが大変だった。要はスタジオでの生活に戻るのに、ちょっと調整が必要だったってこと。でも数か月かけてやっているうちに逆にスタジオが楽しくなっていって、最終的……去年の終わりから今年の頭にかけて作業が本格化する頃には、新しいレコードに自信が持てるようになっていたよ」。
曲はツアー中に書き溜めたらしい。レコーディングすることを前提にそうしたというよりは、「表現したいことがたくさん出てきて自然とそうなっていた」そうだ。
「ツアーでは僕ら全員がほとんど同じような生活を送ったから、認識が共通している部分もすごく多くて。『Sigh No More』の前までは、バンドの活動以外はバラバラに過ごすことがほとんどだったんで、考えていることもバラバラだったんだよね。でもいまは、全員がおおよそ同じ観点から曲も歌詞も書いている。そうした意味では、よりコラボレーション的な作業になってきているような気がするんだ」。
曲作りにおけるこの変化は、録音方法にも影響したようだ。
「収録曲は、ほとんどが基本的に僕ら全員で一斉に演奏してのライヴ録り。それも1テイク。これは新しい、それもけっこう大変なチャレンジだったけど、トラックごとに録って重ねていくのとはまた違った、特別な何かを捕えることができたと思う」。
そしてさらに、「レコーディングは、その曲の、その段階での最高のヴァージョンを形として残すための場というふうに理解しているよ。少なくとも僕はね。まずライヴがあって、レコードにすることはその次。だから、ライヴでレコードを再現するつもりはまったくない。むしろ、ステージでの自分たちを再現するつもりでスタジオに入っている」と語る。そんなベンの言葉を聞くまでもなく、1日も早い初来日公演の実現を願ってやまないのであった。
PROFILE/マムフォード&サンズ
マーカス・マムフォード(ヴォーカル/ギター/ドラムス)、ベン・ロヴェット(キーボード)、カントリー・ウィンストン・マーシャル(バンジョー)、テッド・ドゥウェイン(ベース)から成る、2007年に結成された4人組。ライヴ活動を通じて、ロンドンのフォーク・シーンで台頭しはじめる。2008年にはチェス・クラブからファーストEP『Mumford & Sons』でデビュー。2009年にアイランドから発表したファースト・アルバム『Sigh No More』が、全英/全米チャートで2位を獲得するなどヒットを記録。レイ・デイヴィスやジョニー・ダグラスとの共演も話題を呼ぶなか、セカンド・アルバム『Babel』(Gentlemen Of The Road/Co-op/ユニバーサル)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2012年10月09日 15:40
更新: 2012年10月09日 15:40
ソース: bounce 348号(2012年9月25日発行)
インタヴュー・文/赤尾美香