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インタビュー

FLYING LOTUS 『Until The Quiet Comes』



母なる宇宙の果てにあったのは、どこまでも広がる静けさの世界——時代を牽引するサウンドトラックとして、LAの鬼才はまたしても己の限界を突破した!!



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LAでは人気イヴェント〈Low End Theory〉を中心にヒップホップとエレクトロニック・ミュージックのハイブリッドである〈ビート・ミュージック〉のシーンが注目を浴びているが、このシーンを世界に知らしめたのがフライング・ロータスことスティーヴ・エリソンだ。アリス・コルトレーンを大叔母に持ち、幼少時代はサックスを学びながらも、ヒップホップ、エレクトロニック・ミュージック、インディー・ロックを聴いて育った彼がこれまでリリースしてきたアルバムは、さまざまな音楽シーンに多大なインパクトを与えてきた。レディオヘッドのトム・ヨークをフィーチャーし、生楽器を大幅に採り入れた前作『Cosmogramma』は、母親の死を乗り越え、宇宙をテーマにした傑作となったが、その後に新作に取りかかることに多少なりともプレッシャーはあったようだ。

「『Cosmogramma』のようなアルバムを作ってから、またアルバムを作れること自体が俺にとって大きな達成だった。アーティストというのは、〈前作よりも良いものを作らないといけない〉という気持ちに常に駆られてるんだ。俺としては、〈前作の反響は良かったけど、次はそれを超えるアルバムを作れるかはわからない。それでも俺はこのアルバムを作る。みんなが気に入ってくれるんなら、それでいい〉というメンタルなハードルを乗り越えられることが大きかった(笑)」。

宇宙の旅をテーマとした前作に比べ、新作『Until The Quiet Comes』は、心の内なる宇宙を旅したような内省的なサウンドが中心となっており、タイトルの通り〈静寂〉がテーマとなっている。

「タイトルには、瞑想的な状態、死、新しい生命、死後の世界、あの世、そして涅槃などの意味が含まれてるよ。努力してここまできて、忙しくなって、生活のなかで静けさを見つけることが難しくなってきたんだ。静けさが訪れると、それを大切にして楽しまないといけないことが分かった。 俺は目が覚めてる状態よりも、神秘的な状態や夢の状態に惹かれるんだよ。今回は神秘的な状態や、音楽をクリエイトすることの瞑想的な側面に焦点を当てたかった。それに、子供特有の喜びに満ちた純粋さに溢れた音楽を作りたかった」。

エリソンが得意とする強力なビートも今作に含まれているが、彼のレーベルであるブレインフィーダーからデビューしたジャズ・ベーシスト兼シンガー、サンダーキャットなど数々のミュージシャンが参加し、生楽器とエレクトロニクスの絶妙なバランスを生み出している。

「俺は生楽器が入った音楽をいつも聴いてるから、エレクトロニクスと生楽器のいいバランスを見つけたいと思っていた。ハードなビートだけのアルバムは作りたくなかったし、磨かれすぎて考えすぎた作品にもしたくなかった。クラブ寄りのアルバムじゃなくて、サウンドトラックのような雰囲気の作品にしたかったんだ。俺が作っているさまざまなタイプの音楽のバランスを見つけることがポイントになったね。アンビエント、バラード、実験的な側面をすべて反映させたかったんだ」。

新作には、前作に続いてトム・ヨークがフィーチャーされ、二人のケミストリーはフリー・ジャズとエレクトロニクスが融合した“Electric Candyman”で炸裂している。

「トムとはすでに一度コラボレーションしたことがあったから、彼がまた参加してくれるかどうかわからなかったんだ。もう俺に飽きてるのかとも思ったけど、まだ俺とやりたがっていたから嬉しかったよ。トムには、今回のアルバムが俺にとってどういう意味があるのか説明したんだけど、彼は俺の言葉を採り入れて歌詞を書いてくれたんだ」。

今回もっとも話題になりそうなコラボレーションは、エリカ・バドゥとの共同作業から生まれた“See Thru To U”だろう。

「サンダーキャットが彼女のバンドのベーシストだから、彼を通して紹介してもらったんだ。彼女は俺のファンになってくれて、〈私の音楽をプロデュースして〉と言ってくれたわけだけど、信じられなかったね(笑)。実は、彼女とは多くの曲数は完成させられなくて、そのセッションから生まれたのは今回収録された一曲だけなんだ。エリカと作業していると、自分の母親を思い出すんだ。クリエイティヴな空間にそういう母親的エネルギーが流れているから、最初はちょっと不思議な感覚だった。初めて彼女の歌声を俺のスタジオで聴いたとき、真のアーティストだということを実感したね」。

またもや時代に変革を促すような作品を完成させたフライング・ロータスは、来る11月23日の〈ELECTRAGLIDE〉出演も決定している。今回の『Until The Quiet Comes』はもちろん、エレクトロニック・ミュージックの最前線にいる男のライヴも見逃すわけにはいかない!



▼フライング・ロータスの作品。

左から、2006年作『1983』(Plug Research)、2008年作『Los Angeles』、2009年の編集盤『LA/CD』、2010年作『Cosmogramma』、同年のEP『Pattern+Grid World』(すべてWarp)

 

 

▼『Until The Quiet Comes』に参加したゲストの作品を一部紹介。

左から、ロング・ロストの2009年作『The Long Lost』(Ninja Tune)、レディオヘッドの2011年作『The King Of Limbs』(Ticker Tape/XL)、エリカ・バドゥの2010年作『New Amerykah Part Two: Return Of The Ankh』(Universal)

 

▼フライング・ロータスの参加した近作を紹介。

左から、コード9&ザ・スペースエイプの2011年作『Black Sun』、キング・ミダス・サウンドのリミックス集『Without You』(共にHyperdub)、モフォノの2011年作『Cut Form Crush』(CB)、キラー・マイクの2011年作『Pl3dge』(Grind Time Official/Grand Hustle/SMC)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年10月09日 15:15

更新: 2012年10月09日 15:15

ソース: bounce 348号(2012年9月25日発行)

インタヴュー・文/バルーチャ・ハシム