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インタビュー

石橋英子


ピアノは、言葉にしたくないことを伝える武器

もう死んだひとたち(ジム・オルーク、須藤俊明、山本達久、波多野敦子)とのアルバムを6月にリリースしたばかりの石橋英子の新作は、初のピアノ・ソロ。もちろん、これまでの作品でも石橋のピアノは大きな魅力だった。歌うことは苦行だと常々公言している彼女にとってピアノとは──

「ピアノは、以前よりは怖い楽器ではなくなってきましたね。弾いたらすぐに文句を言ってくる楽器ですけど(笑)。『carapace』を作っている時にはじめてピアノと向き合ってみたんです。それまでは、ピアノのことをよく知らなかったんだと思うんですが、『carapace』の頃から、自分がいかに楽器に鳴らされるか、ということを大事に考えるようになってきたんです」

それにしてもタイトルがいつもながら、いや、いつも以上に秀逸。どこがどう秀逸かと訊かれても、石橋英子らしいと答えるしかないのだが。

「深い意味はないんです(笑)。(今作のアートワークを手掛ける)デザイナーの木村さんが使う書体がいつも面白いので、それをイメージして考えただけで。言いたいことも特にないし(笑)」

彼女は自嘲気味にそう言ったが、タイトルも曲名も単に字面だけの作用には留まらない。本作では、よく似たメロディが、いくつかの曲で繰り返し顔を覗かせるが、それは前に見たようでいて、実は違う光景だと気が付く。迷路にいるようでもあるし、曲名を追いながら聴いていくことによって、何かに吸い込まれていくような感覚さえおぼえるようだ。パッケージ全体で作品が鑑賞される意味を熟知したこの演出。お見事と言うしかない。

「他の人は気が付かないけど、自分だけが気付いている瞬間の出来事。誰にでもある瞬間だと思うんですが、そういう出来事を音にしたと言えるのかもしれません。言葉にするのは難しいことなので、今まで、自分が歌うアルバムではできなかったことがこのアルバムに集まっているのかなという気はしますね」
言葉にはしたくないことを伝えるための武器、それが彼女にとってピアノの存在だ。「もっとピアノのことを知りたいなという気持ちになった」と言うそのまなざしの先には「とてもいい感じになってきた」バンドの存在がある。本作でも素晴らしい録音とミックスを披露するジム・オルークの新作にも、石橋を含む〈もう死んだひとたち〉の面々が参加する予定だという。ピアノで武装した石橋英子は、目下最強なんじゃないか?

『石橋英子withもう死んだ人たち 秋のツアー』

11/14(水)オリエンタルホテル広島
11/15(木)神戸旧グッゲンハイム邸
11/17(土)渋谷WWW/共演:PARA

『「I'm armed」発売記念クリスマスコンサート』

12/24(月・祝)永福町sonorium

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年10月15日 12:46

ソース: intoxicate vol.100(2012年10月10日発行号)

intoxicate編集部