インタビュー

上妻宏光

ジャンルを超えた共演で新たな表現、可能性を引き出す

オリジナル・アルバムとしては5年ぶりとなる上妻宏光の新作『楔-KUSABI-』。初めて大半の楽曲でゲストを迎えたが、その人選が宮沢和史をはじめ、バンドネオンの小松亮太、ギタリストの雅、沖仁、雅楽の東儀秀樹、ヴァイオリニストの古澤巌などジャンルの幅も広い、多彩な顔ぶれになっている。

「他ジャンルのミュージシャンとのコラボは、ここ数年温めてきた企画で、日本に軸足を置いて、日本を意識しながら海外でも活躍している方。そういうミュージシャンと共演することで、日本の今をアルバムで表現したいと思いました」

しかもただゲストを迎えただけじゃない。作曲する段階からゲストとその楽器を意識して曲を書いた。

「三味線は、基本的に不器用な楽器。転調が多い曲は弾きづらいし、曲の構成も単調になりがち。だからバンドネオンとか、歌とか、篳篥とか、他の楽器のためにメロディを書くことで、曲にヴァリエーションが生まれました。当然三味線で演奏するのは難しくなりますが、反対に三味線弾きとしての新しい面が引き出されたし、表現の幅が広がった作品になっていると思います」

自分からハードルを上げてレコーディングに取り組んだわけだが、さらにコラボならではの意外性を求めて、共演者にもいつもとは違うことにチャレンジしてもらったという。

「津軽三味線もフラメンコも基本は即興だけれど、沖仁さんとの共演は敢えて書き譜でレコーディング。しかも同じ部屋で互いに、息遣いを感じながら演奏しました。その方がいい緊張感が生まれて、ライヴ感が音に反映されると思うんです。また、アルゼンチンタンゴの小松さんには敢えてフレンチジャズ風の演奏をお願いしました。最初は戸惑いながらも本番ではアドリブまで加えて見事に演奏してくれて。そういうところに音楽家の踏ん張りが表れるというか。今回のレコーディングは久しぶりに興奮しましたね」

宮沢和史が震災後の福島県で歌詞を書いたという《みだれ桜》。

「宮沢さんの歌詞のセンテンスや世界観が好きで、桜をテーマに歌詞を書いてもらいました。花の背景に生きる勇気や希望が感じられて、初めて読んだ時は、グッときて泣いてしまいましたね」

伝統と革新をつなぐ“楔”をライフワークとしてきたが、コラボを通して手にした新たな楔は、今後の可能性を拓く一筋の光となったようだ。

LIVE INFORMATION
『日本流伝心祭 クサビ 其の弐』

10/27(土)18:30開場/19:00開演
会場:渋谷公会堂
出演:上妻宏光(三味線プレイヤー)/林英哲(太鼓奏者)/宮沢和史(ミュージシャン)/雅-MIYAVI-(ソロアーティスト/ギタリスト)/ORIENTARHYTHM(ダンスパフォーマー)/剱伎衆かむゐ(サムライソード・アーティスト)/上間綾乃(唄者)
http://kusabi.org/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年10月23日 12:50

ソース: intoxicate vol.100(2012年10月10日発行号)

取材・文 服部のり子