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インタビュー

小南泰葉 『121212』



コンスタントなリリースを通じて名を広めてきた2012年を締め括る一枚­が登場。着実なステップアップが窺えるミニ・アルバムです!



小南泰葉_A

メジャー・デビュー・イヤーを駆け抜けた小南泰葉が、なんと今年3枚目となるミニ・アルバム『121212』を、2012年12月12日に発表した。本作には、西川進や羽毛田丈史といった、これまでの作品でもお馴染みの顔ぶれに加え、ART-SCHOOLの戸高賢史が新たにアレンジャーとして参加。彼が手掛けた“視聴覚教室”は、ハードななかにも空間的な広がりのある音作りで、小南の声とメロディーの魅力をより鮮やかに引き立てている。

「戸高さんは……ぬるくなかったですね(笑)。いちプレイヤーとしての意見だけじゃなく、もっと掘り下げて言ってくれて、気付くこともたくさんありました。“視聴覚教室”はこれまでにやってこなかった音作りで、ちゃんと歌が立つような作りになっていると思います。音と歌のバランスって結構難しくて、無難にやろうと思えばできてしまうけど、ちゃんと〈新しい小南〉を引き出してくれました」。

ピアノとチェロをバックに死生観をしっとりと歌い上げた“12月12日”、ストレートにロックしたビート・ナンバーで二元論を語る“善悪の彼岸”などが収められた新作のテーマは、「価値観が180度変わってしまう」ということ。これまでも薬と毒、光と影など、さまざまなものが表裏一体であることを、負の成分多めで描いてきた彼女にとっては、ひとつの集大成的な作品になったと言えるだろう。珍しく恋愛を題材にした“視聴覚教室”にしても、やはり小南らしい〈愛憎〉の歌に仕上がっている。

「自分が恋の曲を書いたらどうなるんだろうと思ってて。きっと丸くは収まらないだろうと思ってたんですけど、〈ああ、やっぱりな〉っていう(笑)。愛憎ってすぐにひっくり返るし、人間は愛で人を殺すこともできる。そのエネルギーってすごいなと思うんですよね」。

また、『121212』から強く感じられるのはヴォーカリストとしての成長だ。すべてを絞り出すような凄味のある声を聴かせる一方で、関西で活動していたインディー時代から親交があるという蜜と歌った“お蜜会”では、落ち着いたトーンで可愛らしい声を聴かせたりと、その表現力はグッと広がっている。彼女はそんな自分の声を、地中から引き抜くと悲鳴を上げ、それを聴いた人間は発狂して死んでしまうという伝説を持った植物〈マンドラゴラ〉に例える。

「もはや綺麗な声はめざしてないし、かといって男の子みたいには叫べない。〈自分の良さって何だろう?〉って考えたときに、マンドラゴラだと思ったんです。自分の声は楽しいのか、悲しいのか、切ないのか、悲鳴的なものなのか、何なのかわからないから、ああいう未知のものに例えられたらいいなと。この1年で、自分のマンドラゴラをだいぶ飼い慣らせるようになったと思いますね」。

小南の表現は、自身が経験したディープな体験に根差したものであり、表面的にはとても明るいとは言えない。しかし、そうやって影や毒、死を見つめた表現であるからこそ、それはきっと誰かにとっての光や薬、生にと、180度転換する可能性を秘めている。そう、小南泰葉の音楽は、決して難しい顔をして聴くべきものではないのだ。

「音楽って〈One Of自分〉でいいんです。ないと絶対困るし、生きていけないってこの5年ぐらいでわかってしまったんですけど、常に日々の楽しみを他で見つけようとしてるし、音楽もやるからには楽しいことをやりたくて。〈世界観を固めよう〉とかじゃなくて、とにかく変なことを打ち出して、〈あの子おもしろいことが好きなんだね〉って思ってくれれば、それでいいと思ってるんです」。



▼関連盤を紹介。

左から、ART-SCHOOLの2012年作『BABY ACID BABY』(キューン)、羽毛田丈史の2009年作『PRESENTS III』(in the garden)、蜜の2012年作『eAt me!』(EMI Music Japan)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年01月15日 18:00

更新: 2013年01月15日 18:00

ソース: bounce 351号(2013年12月25日発行号)

インタヴュー・文/金子厚武

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