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インタビュー

The Flickers 『Fl!ck EP』



光と闇、刹那的な享楽性とシリアスな人間性——バンドの振り幅を大解放した、泣き虫ダンス・ロック盤が到着!!



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ガレージ・ロック、ポスト・パンク、エレクトロ・ポップといった音楽性を、そのオリジネイターと2000年代のリヴァイヴァリストの両方から吸収し、『WONDERGROUND』『WAVEMENT』という2枚のミニ・アルバムに表出してきたThe Flickersが、いよいよ真の独自性を手にしつつある。4曲入りのファーストEP『Fl!ck EP』は、そんな手応えを感じさせる作品だ。

「今回は土台を僕が作ったうえで、3人で家に集まって、毎日のように話し合いながら実験を繰り返して作りました。ドラムもパッドで叩いて録って、それをみんなで聴いて、キーを変えたりテンポをずらしたりして。感覚的な部分だけじゃなく、より考えて作るようになってますね」(安島裕輔、ヴォーカル/ギター/シンセサイザー)。

「いままでより〈俺が俺が〉っていう感じが減って、安島が持ってきた曲にみんなが寄り添って、アンサンブルに溶け込んだ感じはありますね」(本吉“Nico”弘樹、ドラムス)。

抑えめのトーンとBPMが内に秘めた強い情熱を感じさせる“永遠”、ベックの同名曲から連なる負け犬ソングの系譜を受け継いだような“ルーザー”、スターファッカーなどニューウェイヴィーなシンセ・サウンドの影響を受けたという“in your bedroom”と、これまでの自身の流れも踏襲しつつ、しっかりと新機軸も提示している本作。なかでも、歪み切ったベースと複雑なビートがダークでシアトリカルな曲の雰囲気を引き立てる“go go monster”が強力だ。

「ベースは安島が作ったデモの段階で結構良くて、〈じゃあ、これをもっとカッコ良くしよう〉と思って作りました。こういう曲をやるときは、自分でも〈嫌味だな〉って思うぐらいの音を出してやろうって感じでしたね」(堀内祥太郎、ベース)。

「リズム全体に関しては、ストロークスとかニュー・オーダーとか、元からある僕の土台の上に、レディオヘッド、マッシヴ・アタック、ジェイムズ・ブレイクとか、いろんな要素を採り入れていった感じです。特に“go go monster”は、生音と打ち込みがそれぞれどういうリズムを叩いているか明白にはわからないぐらい、かなり混ざり合ってますね」(本吉)。

〈光〉のイメージが強い“永遠”と、〈闇〉のイメージが強い“go go monster”という2曲の振り幅は、そのままThe Flickersというバンドの個性であると同時に、ソングライターである安島の人間性がわかりやすく表れている部分だと言ってもいいだろう。そう、The Flickersの音楽はただの享楽的なダンス・ミュージックではなく、非常に人間臭い部分を持っている。だからこそ幅広いリスナーに届く可能性を秘めていると言えよう。

「自分はそんなに良い人間じゃないというか、できた人間ではないと思うんですけど、そんな人間だからこそ、挑戦を続けなきゃいけないと思っています。ステージで気高くあるために、胸を張って歌うために毎日努力をしていれば、その行為がきっと誰かの力になると思うんです。これからも自分の世界を作り上げると同時に、それを自分で壊して、その振り幅をどんどん大きくしていきたいですね。振り切りすぎてどっかに行っちゃわないように、ギリギリ世の中に存在できるバランスは保ちたいですけど(笑)」(安島)。



▼The Flickersのミニ・アルバム。

左から、2011年作『WONDERGROUND』、2012年作『WAVEMENT』(共にヒップランド)

 

▼文中に登場したアーティストの作品を紹介。

左から、ベックの94年作『Mellow Gold』(DGC/Geffen)、スターファッカーの2011年作『Reptilians』(Polyviynl)、レディオヘッドの2011年作『The King Of Limbs』(_Xurbia_Xendless)、2012年にリミックス/リマスター盤が登場したマッシヴ・アタックの91年作『Blue Lines』(Virgin)、ジェイムズ・ブレイクの2011年作『James Blake』(Atlas/A&M)

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年01月15日 18:10

更新: 2013年01月15日 18:10

ソース: bounce 351号(2013年12月25日発行号)

インタヴュー・文/金子厚武