lupin the third 峰不二子という女──山本沙代(監督)×菊地成孔(音楽監督)対談
『ルパン三世』の27年ぶりのTVシリーズとして注目を集めた『LUPIN the Third 峰不二子という女』。そのサントラを手掛けたのが菊地成孔だ。峰不二子をヒロインに据えたスピンオフとはいえ、これまで山下毅雄、大野雄二といったマエストロたちが〈ルパン・ジャズ〉を生み出してきただけに、ジャズ界の異端児=菊地成孔がどんな新しい血を注ぎ込んだのかは気になるところ。一方、シリーズの監督を務めた山本沙代は、監督デビュー作『ミチコとハッチン』のサントラを、音楽プロデューサーの渡辺信一郎とタッグを組んで、ブラジルのミュージシャン、カシンに依頼するなど、サウンドとヴィジュアルの斬新なコーディネートでアニメ界に新風を吹き込んだ新鋭だ。そんなふたりは峰不二子をどんな音楽でドレスアップさせたのか?
考えていたヴィジュアルは 、曲を聴いて吹っ飛んでしまいました
──『ルパン三世』のサントラを手掛けるのは大役だったと思うのですが、プレッシャーはありました?
菊地成孔 国民的コンテンツなので、周りの反響は大変なものがありましたね。どれだけすごいかというと、池袋の新文芸坐のエレベーターの案内係の人に言われたんですよ、〈菊地さん、今度、『ルパン三世』のサントラやるんですね〉って(笑)。山下さん、大野先生は大変尊敬していますし、ラテンがかったハードバップのことが〈ルパン・ジャズ〉と呼ばれるようになったのは大野先生の前人未到の偉業だと思うんですが、一応、今回のシリーズはスピンオフなんで、ヤマタケ〜大野〜菊地というラインが繋がるとは思わずに、そこは気楽にやらせていただきました。
──監督としては、音楽は新しい人に、という気持ちは最初からあったんですか?
山本沙代 そうですね。スピンオフであることを提示するには音楽を変えることは重要だと思っていました。あとはアニメなんて全く興味のない…不良な方にお願いしたいと考えていたので、菊地さんのお名前が渡辺さんからあがった時に「この人しかいない!」と…(笑)
──音楽のイメージについて、監督から菊地さんに何か説明したことはあったんでしょうか?
山本 今回の物語の舞台設定のイメージがが60年代後半から70年代前半だったので、その時代にあわせた音楽をいただきたい、という話はしましたね。
菊地 具体的に言うと〈打ち込みはナシ〉っていうことです。コンピュータを使うとしても手弾き風のもの。あとは自分のアルバムを作るようにやってくれと(音楽プロデューサーの)渡辺さんから言われました。
──できあがった音楽を聴いてみていかがでした?
山本 最初にテーマ曲(『新・嵐が丘』)をいただいたんですが、それがあまりにも素晴らしくて。絵をつけてイメージが限定されるのがもったいない気がして、手が止まってしまったんです。でも、最終的にできあがったフィルムはこれまで自分が見たことがないようなもので、あれは音楽が見せてくれたヴィジュアルだと思っています。
──自分でも予想外な仕上がりだった?
山本 そうですね。曲をいただく前になんとなく考えていたヴィジュアルはあったんですけど、曲を聴いて吹っ飛んでしまいました。
菊地 ミスリードじゃなければいいんですけど(笑)
山本 いえいえ(笑)、スタジオのスタッフみんなが驚いてましたよ。