こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

lupin the third 峰不二子という女──山本沙代(監督)×菊地成孔(音楽監督)対談(2)

音楽をやるのは俺しかいないなと思いましたね

──歌ではなくてナレーションなのが意外ですね。

山本  渡辺さんと〈歌ってあまりはまらないよね〉という話をしていた時に、渡辺さんが〈それじゃ、語りはどう?〉と言って、それは面白い、ということになったんです。それで菊地さんは文章も面白いから、歌詞もお任せしようということになって無茶ぶりをしてしまいました(笑)。

菊地  ナレーションは〈音楽として独立しながらも作品を暗示するようなもの〉というオーダーだったんです。だから不二子役の声優さんではないほうがいい、ということで誰が良いかと考えていたら、高見君(音楽制作担当のイーストワークスエンタティンメント高見一樹氏)から〈橋本一子さんですよ〉という囁きがあって〈お前はやっぱ天才だな!〉と(笑)。橋本さんの声はアニメ臭くないし、そんなに上手くもない。ゴダールの映画で役者じゃない人が突然語り出したりするじゃないですか? そういう異物感が出るだろうし、大人のオンナ目線のセリフなので、それも橋本さんの声の雰囲気にあってると思ったんです。

──橋本さんはシリーズのクライマックスで、重要な役で声の出演もされていますね。ナレーションの後に決まったキャスティングだったんですか?

山本  そうですね、完全に後付けです。でも、実際にお会いしたらルパンに出ていてもおかしくないような雰囲気の方で(笑)。お願いして良かったと思いました。

──スコアのほうは〈ルパン・ジャズ〉をどこかで意識したりしました?

菊地  そんなに意識はしませんでしたね。ただ、60年代後半〜70年代前半の設定のイメージで作ると、偶然似てきたりするところはある。

──山下さんみたいな口笛とかスキャットとか?

菊地  そういうのは、渡辺さんから送られてくるオーダー表に〈口笛〉とかすでに書かれてるんです。このオーダー表がとにかく細かくて(笑)。〈寂しそうに、かつ悲しすぎず〉とか〈フェンダーローズとギターで〉とかね。編成まで決まってるんだ、と思って。それをある程度シカトして自分の色を出すミュージシャンもいると思うけど、俺はそういうタイプじゃないんで、その通りにどんどん作りました。

──そして、出来上がった曲を渡辺さんと監督が絵にはめていくわけですね。

山本  選曲は全て渡辺さんにおまかせしていました。渡辺さんは音楽が一番格好良く聴こえるような選曲をする方で、いただいた曲は基本的に全部使うんです。今回も勿論劇中で全曲使用しています。私はそれを受けて聴いてみて、ダビング作業でチェックしていました。ちなみに放送1話ではミスによって使用出来なかったかった結婚式用の民族音楽もDVDでは差し替えて入っています。そちらもチェックして頂けると嬉しいです!

──菊地さんの音楽のハマり具合はいかがでした?

山本   自分で言うのも図々しいんですけど(笑)、『峰不二子という女』にはどこか高級な雰囲気があって。それは音楽のイメージによるところが大きいんじゃないかと思っています。

──音楽の果たした役割は大きかったと。

山本  はい!菊地さんの音楽なしでは「峰不二子という女」は完成させることが出来ませんでした。

──では、完成した作品に対する菊地さんの感想は?

菊地  今回のルパンは〈大人のルパン〉に戻そうというスローガンのもと、女性監督と女性脚本家による〈フェミニズムのルパン〉でもあった。性的なトラウマを抱えたヒロインが自分探しをする、というのは昔のヨーロッパ映画の定番だったわけだけど、そういう心理的な問題を一切の妥協なくアニメでやっていて、男性を震え上がらせる作品だと思ったし、そういう作品の音楽をやるのは俺しかいないなと思いましたね。出来不出来は別としてだけど。だから一時期、女性の性的なトラウマをテーマにした『反撥』とか『去年マリエンバードで』のサントラをずっと聴いてた時期もあったんです。

──なるほど。不協和音もサントラの特徴ですよね。最後に、先ほど監督は〈橋本一子さんはルパンに出てきてもおかしくない〉とおっしゃっていましたが、菊地さんはどうですか? 

山本  出てくると思います(笑)

菊地  おーっ(笑)

山本  そういえば初めてお会いした時、黒いスワロフスキーのピアスをしていらして、それが可愛いなと思ってそのことばかり考えてたんです。どこで買われたのかなって。

菊地  新宿の伊勢丹で買いました(笑)。AGATHAのレディースです。

山本  なるほど。それ訊きたかったんです(笑)

山本沙代
代表作は、2008年に初監督を務めた『ミチコとハッチン』。渡辺信一郎監督の「サムライチャンプルー」で各話絵コンテ・演出。小池健監督の「ワールド・レコード」長編劇場作品『REDLINE』では絵コンテ協力・バックグラウンド原案等を担当。

菊地成孔
1963年生まれ 千葉県出身。ジャズメンとして活動。軸足をジャズに置きながら、ジャンル横断的な音楽/著述活動を旺盛に展開。驚異的な多作家であり、一貫する高い実験性と大衆性、独特のエロティシズムと異形のインテリジェンスによって高い支持を集め続ける。最新アルバムはDCPRG『SECOND REPORT FROM IRON MOUNTAIN USA』(impulse!)

「LUPIN the Third 峰不二子という女オリジナルサウンドトラック」発売記念イベント トーク&サイン会
1/14(月)17:00〜タワーレコード新宿店7F
出演:菊地成孔

参加方法:要整理券。ご予約者優先で、タワーレコード新宿店・渋谷店にて12/19発売『LUPIN the Third 峰不二子という女 オリジナルサウンドトラック』(COCX-37721)を、お買い上げの方に先着で整理番号付サイン会参加券を差し上げます。


カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年12月19日 12:46

ソース: intoxicate vol.101(2012年12月10日発行号)

interview&text:村尾泰郎

記事ナビ