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インタビュー

ピーター・ウィスペルウェイ


©Frits de Beer

3度目のバッハ《無伴奏チェロ組曲》録音とプラチナ・ソワレ

年齢なんか問題ではないのかもしれないが、50歳にしてヨハン・セバスティアン・バッハ《無伴奏チェロ組曲》の3度目(!)の録音をリリースしたチェリストは現役ではほとんどいないだろう。オランダ出身のチェリスト、ピーター・ウィスペルウェイは2012年に3度目の全曲録音をリリースした。これまでの2度の録音との違いは、どこにあるのだろうか?

「まず、今回の新録音は通常のバロック・ピッチよりさらに半音低いa=392で演奏しています。これはこれらの作品が作曲されたと考えられる時代にヨハン・セバスティアン・バッハが勤務していたケーテンの宮廷で使われていたピッチなのです。それだけでなく、楽器も弓もこれまでとは違うものを使って録音しました(注:第6番はピッコロ・チェロを使用している)」

ウィスペルウェイはモダン楽器も古い時代の楽器も駆使して、チェロによる表現の世界を新たに開拓してきた人である。けしてマニアックな感じな演奏家ではないが、しかし、作品とそれが作曲された時代への考察は、どんな作品でも常に欠かさない。今回の新しい録音に関しては、 バッハ研究家でヴィオール奏者でもあるローレンス・ドレイフュスとジョン・ブットからも様々なインスピレーションを得たと言う(その二人のコメントは同じ盤のDVDに収録されてもいる)。

「私はバッハの無伴奏チェロ曲を演奏する時には、古い楽器で弾くときも、現代の楽器で弾く時も、ほとんど同じアーティキュレーションを使います。ボウイングは、バロック時代の弓で演奏するように、スピードを活かして共鳴音を作り出して行きます。同時に弓と弦のコンタクトもなるべく近いままに保って、様々な協和音をあらゆる形で表現できるようにしています」

その奏法によって、バッハが試みた調性の微細なディテールが表現され、同時に活き活きとした音楽の表情が作り出されるのだろう。それこそまさに、古い時代の楽器を使って演奏することの面白さに繋がる。

ところで、そのバッハとレーガー(1873~1917)という作曲家の無伴奏曲の組み合わせによる演奏会も開催される。東京文化会館小ホールでの『プラチナ・ソワレ』シリーズ第4夜(2013年2月22日)である。

「バッハの無伴奏チェロ曲から第3番と第6番を演奏しますが、この2曲はとても豊かでオープンな共鳴音を持つ作品です(注・第3番はハ長調、第6番はニ長調)。レーガーの作品を弾くときには、暖かく朗々と歌い上げる事が必要です(注:レーガーは第2番ニ短調と第1番ト長調を演奏)。このように、二人の作曲家には類似している点が多く、ここで演奏する曲では共に、チェロが寛容で、しかも圧倒的な音量を持つ楽器であることが提示されていると思います」

そのプラチナ・ソワレの来日時には、マスタークラスも行われることになっている。2月20、21日、東京文化会館小ホールである(ちなみに2月11~13日、横浜みなとみらいホールでもウィスペルウェイによる室内楽のマスタークラスが開催される)。その意義を聞いてみた。

「美やドラマ、聴く者を慰める何かを作り出す喜び。そうしたことを若い演奏家に伝えることですね」

これまでの日本公演で、ウィスペルウェイの演奏は常に温かい感動を私たちに与えてくれた。日本の聴衆については、どんな印象を持っているのだろうか? 月並みだが、聞いてみた。

「日本の聴衆は音楽に精通している上に、集中力があります。日本の聴衆のために演奏出来るというのは、私にとっては非常に大きな名誉です」

バッハとレーガーの組み合わせによる演奏会は、古楽とモダンの世界を縦横に翔るウィスペルウェイらしさの溢れたものになるだろう。楽しみだ。

LIVE INFORMATION
プラチナ・ソワレ 第4夜「無伴奏チェロの至宝」ピーター・ウィスペルウェイ(vc)
2/22(金) 19:00開演 (18:30開場)
曲目:レーガー:無伴奏チェロ組曲第2番 ニ短調 Op.131c No.2/J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第6番 ニ長調 BWV1012/レーガー:無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 Op.131c No.1/J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番 ハ長調 BWV1009
会場:東京文化会館 小ホール

Music Weeks in TOKYO 2012
東京音楽アカデミー マスタークラス
ピーター・ウィスペルウェイ(チェロコース)

2/20(水)~21(木)
14:00開講(13:30開場 17:45終了予定)
会場:東京文化会館 小ホール

http://www.t-bunka.jp/


掲載: 2013年01月07日 17:53

ソース: intoxicate vol.101(2012年12月10日発行号)

取材・文/片桐卓也