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インタビュー

AK-69 『The Independent King』



王者は常に挑戦者でもある——痛快なまでの勝ち上がりを体現してきた男が、また新たなチャレンジを選んだ。新しい環境で新しいバッグに詰め込まれたものとは?



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自分との闘い

孤独、そして葛藤——語弊を恐れずに言えば、AK-69が今回発表するニュー・アルバム『The Independent King』の軸となっているのは、自信に満ち溢れている彼の過去作品群ではあまり見ることができなかった、このようなネガティヴな感情だ。

「今回のアルバムを作っている最中に、一瞬〈俺がいままで一歩ずつだとしても確実に登ってきた階段を、もしかしたら次の一歩で降りていくことになるんじゃないか〉とか、そういうマインドになったんですよ。もしここからずっと階段を降りていくとしたら、その先に見ていた野望も色を失って全部崩れていく。そう思った時、すごい虚無感と恐怖に襲われた」。

文字通り、ヒップホップにおける〈絶対王者〉を連想させるそのタイトルとジャケットにはおよそ似つかわしくないとも言えるこういった〈陰〉の感情は、直接的な表現ではないにせよ、今回のアルバムに散りばめられている。たとえば本作のイントロ的な役割を果たす“Konayuki”には、希望と失意が渦巻くNYの街並を威風堂々とそびえ立つ摩天楼から見下ろすも、みずからの置かれたそれとは対照的な状況に唇を噛み締めるというコントラスト豊かな情景が見事に描かれている。これまでならばそのようなネガティヴなマインドすらバッサリと切り捨てていたであろう彼がグッと唇を噛み締めたそのワケが、本作の根底にあるテーマへと通じている。

「『THE RED MAGIC』が日本で積み上げたものを引っ提げて、加速したその勢いのまま作ったアルバムだとしたら、今回はそういう単純な勢いだけの色じゃない。(制作に際しては)本当にいろんなドラマがあったし、いろんな意味で〈自分自身との闘い〉になるだろうなって。問題は外にあるように見えるけど、なんだかんだ言っても結局は自分との闘い。そういうソリッドな考え方に戻れたのがこのアルバムですね。〈INDEPENDENT〉っていう言葉にもいろんな意味があるけど、舞台裏も含めて、俺は他のアーティストやレーベルが絶対にできないような選択をしてここまで来ている。自分が貫いてきた道を改めて冷静に振り返って、本当に後悔しない道を通ってきたっていうことを確信しながらこのアルバムを作りましたね」。

さらに彼はこう続ける。

「実際、俺もここまでソリッドな自分との闘いに立ち返れるとは思っていなかった。もちろんある程度はそうなるだろうと思ったから海外修行に身を置いたんですけど、予想以上のものと闘うことになりました。でも、それが逆に良かったなって。やっぱり俺は幸せでポジティヴな要素よりも、絶望的な気持ちとか不安っていうネガティヴな要素のほうがガソリンになっちゃうんですよ(笑)」。



スキル以上に不可欠なもの

冒頭では〈ネガティヴな感情が本作の軸となっている〉と記したが、彼は今回のアルバム制作の過程で、その感情や思考を楽曲に昇華し、克服している。つまりは〈自分との闘い〉に勝利したのである。本人も「漠然とした根拠のない自信」と笑うように、これまで過剰なまでに漲る自信を糧に驀進してきた彼が味わった、ある種の挫折——。しかしそれを乗り越える彼は実に人間らしく、その姿はリリックとして綴られた言葉たちと同等に、聴く者へ勇気や感動を与えてくれるのだ。

「〈がんばれ!〉とか口先で言っているだけの暑苦しい歌なんて現実味がない。その人の裏側が見えるわけじゃなくても、発する言葉の重みで(それが口先だけかどうか)なんとなくわかるし、〈お前の熱い言葉を安売りすんじゃねぇ!〉って思いますよ。俺はいままでよりもっとすごいプレッシャーと闘っているっていう自負があるし、だからこそ吐ける言葉もある。ひとつひとつの(リリックの)ラインはいままでに出したどのアルバムよりも刺さるはずだし、それは背負っているものとそれに対する絶対の自信があるから。音楽のためなら何があっても絶対に引かないっていうのを現実で通している俺の言葉には魂が宿っていると思うし、それはスキルとかそういうもの以上に不可欠だと思う」。

さまざまなネガティヴに苛まれながらも、完成に漕ぎ着けた本作の出来には本人も胸を張る。アーティストとしては当然のことかもしれないが、彼が今回のアルバム制作に注ぎ込んだエネルギーは相当なものだったはずだ。インスタントに垂れ流され、何気なく消費されていく音楽と比べれば、もしかすると彼は随分と遠回りな音楽をやろうとしているのかもしれない。しかしそれこそが彼が生み出す音楽の魅力であり、一心不乱に貫くその信条は本作でより研ぎ澄まされて輝きを増した。すべてを昇華して封じ込める——その象徴が、アルバムを締め括る決意の一曲“START IT AGAIN”だ。

〈負けなしの頃は 浴びる鳴り止まねぇ歓声/勝てなくなれば そうただの鉄くず それでも/I run forever ここにいる事が証拠/目を閉じれば そうスタートはもうすぐ I already know〉。

「自分の好きな音楽を作るのは簡単なんですよ。音楽人としてすごく大事なところだとも思うし、俺もそれを日々追い求めているけど、やっぱりヒップホップである以上、レベル・ミュージックである以上、その裏側のドラマも重要だし、端から見ていてそこに確固たるものがないと」。

前作『THE RED MAGIC』リリース時のインタヴューで、彼は「映画的なアルバムを作りたかった」と話していた。しかし特別それを意識しなかったという今回の『The Independent King』も、また実に映画的な仕上がりのアルバムだと筆者は思う。それは表現者としての彼の人生そのものがこのうえなくドラマティックなものであり、本作がそれを余すところなく落とし込んだ傑作であるからこそ、なのだろう。



▼『The Independent King』に参加したプロデューサーの作品。

左から、DJ RYOWの2012年作『LIFE GOES ON』(MS)、NATOの2010年作『13 BEATS TO DIE』(STREET OFFICIAL)、DJ PMXの2012年作『THE ORIGINAL II』(BAY BLUES/HOOD SOUND/plusGROUND)

 

▼『The Independent King』に参加したアーティストの作品。

左から、Anarchyの2011年作『Diggin' Anarchy』(R-RATED)、OZROSAURUSの2012年作『OZBUM~A:UN~』(BAY BLUES/EMI Music Japan)、"E"qualの2012年作『12 TONE APARTMENT』(MS)、AIの2012年作『INDEPENDENT』(EMI Music Japan)

 

▼先行シングルを紹介。

左から、“SWAG IN DA BAG”“SWAG WALK”“THE SHOW MUST GO ON”(すべてMS)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年12月26日 12:30

更新: 2012年12月26日 12:30

ソース: bounce 351号(2012年12月25日発行)

インタヴュー・文/吉橋和宏

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