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インタビュー

アーウィン・シュロット

©Fabrice Dall’Anese

悪役の方で、ぼくが歌うのを待っていてくれたんです

魅惑的な深くやわらかい声と魅力的な容姿で、ドン・ジョヴァンニやレポレロやフィガロなどを演じて絶大な人気を誇るシュロット。10月にウィーン国立歌劇場と来日し『フィガロの結婚』に主演した。「僕の声はバス・バリトンだけど、高い声も低い声も出るので、自分の声質はどんなか悩みます。でもヴォイス・トレーナーには勝手に枠をはめないように、心地よい限り何でもやっていいと言われます。声というのはまるで女性のよう。デリケートで気まぐれ。大事に扱かわなければね」。

ウルグアイ生まれ、1998年ドミンゴ主宰の声楽コンクール『オペラリア』に優勝して一躍注目される。以後はモーツァルトの諸役で大活躍中だ。「モーツァルトの役はあまりに難しく、その楽譜には人間のあらゆる感情が凝縮されている。自分の勝手な解釈など入り込む余地はないほどですが、本を読み人生での経験を積み重ねることで、演じるキャラクターが変わってくる。自分は同じ役でも舞台で二度と同じことをしません。毎回初めて舞台に立つような新鮮な気持ちで取り組み,納得いくまで全力でベストを尽くします」。
新譜『アリア』のコンセプトは?と聞くと。

「これは自分の過去・現在・未来です。自分のしてきたことのほんの一部を聴いて欲しい。カルロス・ゴメスって聴いたことないという人は、これを機会に知って欲しい。タンゴのアルバムも出したけど、オペラ好きの人にもタンゴに興味を持って欲しい。人生は複雑だといわれるけど、そんなことない。怖がらず、心を開いて新しいものを知る。人間みな同じ生を授かっているんだから」。

アルバムでは『ファウスト』『メフィストーフェレ』などの悪魔役を数多く歌っている。「悪役はとても難しい。ぼくは役に入り込む方なので、入り込むとコントロールできなくなる。それでぼくが自由に歌えるようになるまで、悪役の方が待っていてくれたんです。これからは悪魔役と共に、ドゥルカマーラなどコミックな役も歌っていきたい。ファルスタッフは大好きで、いま準備中。スカルピアはあと数年、5年かな?待って下さい。すばらしい役なので、必ず歌います」。

ベスト役といわれるドン・ジョヴァンニ役については?「みんな僕のこと、ドン・ジョヴァンニそのものだというけど、僕自身の中にジョヴァンニは何もない。僕はシリアスな誘惑者ではありません」。

ではネトレプコさんの方が誘惑者だったのですか?と聞くと「それは雲の中に収めて…」とかわされた。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年01月18日 20:12

ソース: intoxicate vol.101(2012年12月10日発行号)

取材・文 石戸谷結子