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インタビュー

イブラヒム・マーロフ

微分音トランペットで奏でるアラブの幽玄世界

微分音トランペットで奏でるアラブの幽玄世界アラブ、クラシック、ジャズ、エレクトロニクなどを自在に行き来しながら独自の第四世界音楽を作りあげてきた在パリのレバノン人トランペット奏者、イブラヒム・マーロフ。1980年生まれの彼は、幼少時に家族と共に渡仏して以降ずっとフランスで育ち、パリ音楽院でクラシック音楽のトランペットを学んだが、「完全なフランス人であると同時に完全なレバノン人でもある」と語るとおり、今も二重国籍者として両国を頻繁に行き来している。その独自の音楽を表現するための特注トランペット(4ピストンで1/4微分音を出せる)は、同じくトランペット奏者である彼の父が開発したものだという。父は、若い頃にパリ音楽院でかの名匠モーリス・アンドレに師事するなど10年間もフランスで勉強した後、レバノンで演奏家として活躍してきた。

「しかし、10年間も外国で勉強したのに、アラブ音楽をまともに演奏することもできないのかと祖父になじられた」のをきっかけに、アラブ音楽特有の微分音を出せる特殊なトランペットを独力で開発したのだった。残念ながら、アラブ音楽の世界ではそもそもトランペット奏者が非常に少ない上に、トランペットであえてアラブ音楽をやりたいと思う者も稀なため、この特注楽器を使っているプロの奏者は、現在マーロフ親子二人だけなのだという。

「アラブ音楽において、ナンバー・ワンの楽器はヴォーカルだが、トランペットは人間の声の表現にとても近い楽器だと思う。だから、アラブ歌謡が好きな人は、きっとトランペットの音色も気に入るはずなんだ。ところが、アラブ諸国ではトランペットはイメージが悪い。トランペットが使用される場は長年、軍隊や葬式などだったから。父はそういった大衆の思い込みを変えるためにも、この楽器を作ったんだと思う。だから僕は、この楽器を少しでも広めたいと思いながら活動している。父の夢を託された者として」

そんな彼が、一貫して追求してきたのは“自由”である。

「自由こそは、僕の音楽、人生のすべてにおける原動力であり続けているし、今後もそうだ。だからこそ、今なおクラシック音楽も演奏しているわけで。たとえば僕は、メロディやリズムなどアラブ音楽のモードや微分音を入れた自作曲をオーケストラで演奏することもあるんだが、そういうことができるのも、普段きちんとクラシックの世界でも演奏しているからこそだ」

ちなみに、過去3作品よりもだいぶジャズ・マナーが強い最新作『Wind』は、「マイルス・デイヴィス・クインテットのスタイルでアラブ音楽の要素を入れたジャズをやったらどうなるか」というテーマで作ったものだという。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年02月26日 13:56

ソース: intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)

取材・文 松山晋也