インタビュー

神尾真由子

©Hirofumi Isaka

新たな楽器とともに、次のステップへ

2011年夏からの半年間のサバティカルを終え、リフレッシュして戻って来た神尾真由子。2012年冬の日本ツアーでも各地で大好評を博していた彼女が、最新アルバム『ロマンティック・ソナタ』をリリースした。

共演のピアニストはツアーでも一緒だったミロスラフ・クルティシェフ。彼は神尾と同じ07年のチャイコフスキー国際コンクールでの覇者(1位なしの第2位)である。
「2年と少し前くらいから組んでいます。アーティステックですし、本当に真面目で、いつでも本気で弾いてくれるので感心します。彼は私とはタイプがだいぶ異なるので最初の取りかかりが全然違うんです。よい意味で期待を裏切ってくれるので、とても刺激になりますね」

神尾はこの録音の直前に楽器を、それまでのストラディヴァリウスからグァルネリ・デル・ジェズ“Sennhauser”に変えた。以前にはリーラ・ジョゼフォウィツやサラ・チャンも使ったことがある名器である。

「サントリーから貸与されていたストラドを返さなくてはならなかったので楽器を探していたところに、シカゴのストラディヴァリ・ソサエティからデル・ジェズを紹介されたんです。2012年の夏から貸していただくことになりました」

この楽器を用いて録音した当アルバムでは、これまでの彼女に比べると、弱音が活かされ、ソット・ヴォーチェや柔らかさ、繊細さが目立つ。フランクのソナタなど、従来の他のヴァイオリニストの演奏と比べても特にその傾向が強く、ピアノも第2楽章ですら決して叫んだりはしない。ストラドと異なり音が開放され易いデル・ジェズを用いながら、敢えて抑制を利かせたこれらの表現は実に秀逸だ。

「録音なので、大きなホールで弾くのとは違うアプローチを試みました。大ホールでは隅々まで届かないような小さな音で弾いたところも沢山あります。前回のCDから少し時間が経っていますし、楽器も変わって、右手の使い方やヴィブラートのかけ方などテクニックの点でも変化してきましたしね」

「フランクは全体としては割と穏やかな曲だととらえています。特に第3楽章の後半から第4楽章にかけては明るい、希望が射すようなイメージ。なのであまり情熱的、前向きにならないようにしました」

“チャイコフスキー・コンクールで第1位に輝いた”という枕詞も、もうそろそろ不要かも知れない……。神尾真由子の充実の活躍を見るにつけ、その思いはいや増すばかりだ。

LIVE  INFORMATION
『日本フィルハーモニー交響楽団 どりーむコンサート Vol.79 小林研一郎&神尾真由子』
3/9(土) 14:00 開演
会場:府中の森芸術劇場 どりーむホール

『仙台フィル・ロシア公演凱旋演奏会』
4/12(金) 19:00 開演
会場:仙台青年文化センター
出演:パスカル・ヴェロ(指揮)

http://www.aspen.jp/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年03月08日 12:47

ソース: intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)

取材・文 松本學(音楽批評)