JUSTIN TIMBERLAKE 『The 20 /20 Experience』
成功した実業家? 恋愛話が売りのセレブな俳優? いやいや、スーツとタイでビシッと決めたこの伊達男、ジャスティン・ティンバーレイクにつき。時代が切り替わる瞬間をアァァァー・ユゥー・エクスペリエンスト?
愛するものとのネクスト・ジャーニー
「今年は俺にとってエキサイティングな年になるんだ。みんなが噂を耳にした通り、俺はこの2013年がビッグなものになるように準備をしている」——公式HPにて発表されたそんな声明をもって、音楽に帰ってきたジャスティン・ティンバーレイク。世界的なヒットを記録したエポックメイキングな一作『FutureSex/LoveSounds』から実に7年、待望のサード・アルバムがようやく届けられた。
帰ってきた……というか、もちろん彼が音楽の世界から立ち去ったことはないし、それは別掲のディスクガイドを見てもらうまでもないだろう。ロブ・ノックス&ジェイムズ・フォントルロイと組んだY'sとしてプロデューサー業にも本腰を入れ、主宰レーベルのテンマンからエスミー・デンターズやフリー・ソウルらを送り出すなど、裏方としての活躍も才能豊かな男による音楽表現ではあった。ただ、日本でも評判となったヒット映画「ソーシャル・ネットワーク」(2010年)の助演をはじめとする俳優業の充実ぶりや、レストランからゴルフ場にまで跨がる多彩な事業展開(彼の出資するスペシフィック・メディア社がMySpaceを買収したことも話題になった)は彼を本業から遠ざけて見せるものだったし、それ以上に大衆性のあるトピックといえば、キャメロン・ディアスとの破局に始まって、スカーレット・ヨハンソンやジェシカ・ビール、ミラ・クニス、オリヴィア・マンらとのゴシップばかり……彼の作品に惹かれていたリスナーにしてみれば、何やってんの?的な感想を抱いても仕方なかったかもしれない。最終的にはゴタゴタ含みながらも長い交際を貫いてきたジェシカと昨年10月に晴れて結婚したわけだが、そんな状況下でジャスティンは着々と準備を進めていたのだ。ステイトメントは以下のように続く。
「去年の6月、俺は静かに〈音楽〉という俺が愛するものとのネクスト・ジャーニーに取りかかりはじめた。俺はただスタジオに入り、サウンドや曲に触れてあれこれやりはじめただけなんだ。恐らく俺のキャリアのなかでも最高の時間だったと思う」。
その成果が最初に明かされたのは、カムバックを告げる1月のシングル“Suit & Tie”だった。ジェイ・Zを迎えた同曲は世界31か国の配信チャートを制し、2月のグラミー授賞式でも披露されて全米4位(R&Bチャートでは首位)を記録している(カニエ・ウェストによる口撃も良いプロモーションになった?)。続く“Mirrors”はアッシャー〜クリス・ブラウン以降のアーバン・ポップ流儀に応じた晴れやかなラヴソングで、全英1位を獲得。そうした先行カットの勢いに乗って登場したのが今回の『The 20/20 Experience』なのである。
制約なしに創造した
全編をプロデュースするのは、前作と同じくジャスティン自身とティンバランド。前作に深く寄与したデンジャの役割は、ここ数年のティンバ作品に欠かせないジェローム“J・ロック”ハーモンが担っている(2曲のみY'sのロブとジャスティンの共同制作)。件の“Suit & Tie”はスライ・スリック&ウィキッドの超スウィートな名曲“Sho' Nuff”を甘くループしたものだったが、アルバム全体のムードは、そこから漂う〈スタイリッシュ〉〈アダルト〉〈ジェントル〉という印象に終わるものではない。全12曲で約80分というヴォリュームからもわかるように7〜8分を超える尺のナンバーが並び、前作同様にアレンジの展開や飛躍が甚だしい曲もゴロゴロある。
オープニングの“Pusher Love Girl”はファルセットとコーラスがゆったり掛け合うゴスペル様式が麗しい。そこからインド音楽風のループと極太ボトムがヤバいティンバ丸出しの“Don't Hold The Wall”、大人っぽいミッドからジャジーなボッサへと滑り込む“Strawberry Bubblegum”、変態的に執拗なティンバ節がたまらない“Tunnel Vision”(久々にチキチキ言ってるよ!)、歯切れの良いホーンとアーシーな歌唱の絡みにメンフィスの血を感じさせるソウル・ナンバー“That Girl”、アフロビートからスムースなファンクに流れ込む様がマイケル・ジャクソンを思わせもする“Let The Groove Get In”……と、気合い十分な逸曲が次々に押し寄せてくる(試聴会で通して一回聴いただけなので、曖昧な感想ですみません)。とりわけ、プリンス好きならではの粘着ロマンティック・スロウ“Spaceship Coupe”は聴いて15秒で極上に認定したくなる悶死チューンだ。
本人の「何も制約を受けず、落としどころも考えずに創造するということ、そのプロセスは本当に楽しかった」という言葉を素直に鵜呑みにすれば、単に時流を気にせず作ったようにも思えるし、確かに流行の要素がモロに投入されているわけでもない。が、一方で、このポップな才人が時代に背を向けるわけはないとも思うのだ。
例えば、クラッシーでスタイリッシュで成熟した全体の質感は、昨今の安直な(本当に安直な!)レトロ〜ヴィンテージ回帰ムードに対して出されたこのチームなりの回答と捉えることもできるし、あるいは“SexyBack”でアーバンの土壌にビッキビキのダンス・ビートを持ち込んだコンビが今回そこに踏み込んでいないことも、何を意味しているかはあきらかじゃないだろうか。そうやってこのエクスペリエンスが世の風潮に新たな視野を開くのだとしたら、そういう意味でも2013年はエキサイティングな年になりそうな気がする。
▼関連盤を紹介。
左から、ジェイ・Z&カニエ・ウェストの2011年作『Watch The Throne』(Roc Nation/Roc-A-Fella/Def Jam)、スライ・スリック&ウィキッド“Sho' Nuff”を収めたコンピ『Gimme Your Hand J-B!』(Pヴァイン)、ティンバランドの2009年作『Shock Value II』(Mosley/Interscope)
▼ジャスティン・ティンバーレイクが客演/プロデュース参加した2007年以降の作品を一部紹介。
左から、メイシー・グレイの2007年作『Big』(Will.I.Am/Geffen)、リーバ・マッキンタイアの2007年作『Reba: Duets』(MCA Nashville)、タリブ・クウェリの2007年作『Eardrum』(Warner Bros.)、T.I.の2008年作『Paper Trail』(Grand Hustle/Atlantic)、レオナ・ルイスの2009年作『Echo』(RCA)、ジェイミー・フォックスの2010年作『Best Night Of My Life』(J)、ジミー・ファロンの2012年作『Blow Your Pants Off』(Warner Bros.)
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年03月27日 18:01
更新: 2013年03月27日 18:01
ソース: bounce 353号(2013年3月25日発行)
構成・文/出嶌孝次