BONOBO 『The North Borders』
未知なる地平をめざして、新たなサウンドスケープへ……ロンドンからNYへと渡った才能は、それ以上の時間と距離を飛び越えて次代へと辿り着いた!!
クァンティックやゼッド・バイアスを擁する英国ブライトンのレーベル=トゥルー・ソーツから登場し、10年以上のキャリアを通じて、クラシックなブレイクビーツをまろやかに熟成させてきたボノボことサイモン・グリーン。2010年の前作『Black Sands』は、ホーンやストリングスを含む生楽器を交えながら、オーガニックなサウンド・テクスチャーをソウル、ファンクからブラジリアン、中国の民族音楽へと広げ、高い評価と好セールスを記録。ブレイクビーツを愛するアーム・チェア・トラベラーの支持を集めると同時に、バンド編成で臨んだワールドツアーも各地で大好評を博した。その熟成された音楽世界の先で彼を待っていたものとは……。
「毎回同じことはしたくなかったんだ。そう思いつつ、自分の型から抜け出すことは簡単なことじゃない。でも、僕のテイストは長い活動を通じて、変化してきたんだよ。はっきり言えば、ジャジーなものやダウンテンポはもう作りたくなかった。自分のなかでその時代は終わってしまったんだ」。
そして、活動の拠点をロンドンからNYに移したボノボが、3年振りの新作アルバム『The North Borders』を通じて、驚きと共に届けてくれるのは、ポスト・ダブステップ経由のハウス・リヴァイヴァルをも内包したベース・ミュージックの最新の進化形だ。フローティング・ポインツや、BBC Radio 1が選ぶ2013年の〈未来のスター〉の一人であるジョージ・フィッツジェラルド、フリオ・バッシュモアといった耳新しいアンダーグラウンドの才人たちに刺激されたという彼は以下のように語る。
「友人から〈これは君のロンドン・アルバムだね〉と言われたんだけど、確かにこの作品はNYに居ながらにして、いまのロンドンのサウンドを自分なりに形にしたアルバムだと思う。生楽器の要素は減ったけど、ハープ演奏者や木管楽器、ストリングス・クァルテットを使ったりしながら、その使い方も以前とは別の角度から表現した。それから、紙を破る音や鍵束をマイクに近付けた音なんかを録音して、それをパーカッションにしたり、思いもよらない音源から複雑な音楽を作り出す試みにチャレンジしたんだよ」。
採取したさまざまな音を解像度の高いエレクトリックかつ緻密なプロダクションに凝縮。そこから生み出されるビートは、ヒプノティックなハウス・トラック上でカリンバや金物系パーカッションが響き合う先行シングル“Cirrus”からスモーキーでメランコリックなダブステップ・チューン“Transits”まで、その先鋭性としなやかさが際立つ。そして、シネマティック・オーケストラのツアーにも参加している黒人フォーク・シンガーのグレイ・レヴァレンドやロンドン在住のジュアディーンとコーネリアという女性シンガーに加え、ハイライトとなる“Heaven For The Sinner”ではエリカ・バドゥをフィーチャーしている。
「僕の音楽についてあまり知らなかったと思うけど、彼女がいちばん重きを置いているのは音楽だから、気に入ってくれたら共演の可能性もあると思って、デモを送ったんだ。この曲には、実験的な手法に興味を持っているいまの彼女のモードが表れているんじゃないかな」。
慣れ親しんだ〈ジャジー〉なテイストや〈ダウンテンポ〉に別れを告げ、未来のサウンドスケープを追い求める音楽の旅に出たボノボ。その旺盛な実験精神はエリカ・バドゥだけでなく、未知なる刺激を求める多くのリスナーを惹きつけることになるはずだ。
「この作品は僕の旅の記録、実際に訪れたさまざまな場所や心の軌跡をコラージュのように反映させたもの。さまざまな土地のフォト・アルバムのようなものなんだ。だから、見方はそれぞれ。その解釈も聴き手に任せるよ」。
▼『The North Borders』に参加したアーティストの作品を紹介。
左から、グレイ・レヴァランドの2011年作『Of The Days』(Motion Audio)、エリカ・バドゥの2010年作『New Amerykah Part Two: Return Of The Ankh』(Motown)
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年04月09日 20:30
更新: 2013年04月19日 12:40
ソース: bounce 353号(2013年3月25日発行)
インタヴュー・文/小野田雄