Emi Meyer 『Galaxy's Skirt』
ピアノを相棒に、パスポートとスーツケースを持ってふらりふらりと旅を続けてきた彼女。今度の行き先は……宇宙ですか!?
彼女の作品を聴き続けてきた人なら、これまでとはずいぶん違うなと一聴して感じるはずだ。エミ・マイヤーのニュー・アルバム『Galaxy's Skirt』。これまででもっともポップな質感を持ち、外に開かれている。バンド・サウンドにより、彼女の体温と感情の動きがダイレクトに伝わってくる。シンガーとしてもエモーショナルな部分が引き出されている。助力したのはデヴィッド・ライアン・ハリスというLA在住のプロデューサー(兼ギタリスト)。そう、今作は初めて外部プロデューサーを起用して作られたアルバムなのだ。
「何回か自分でプロデュースしているうちに、他の人に委ねる自信が付いたんです。自炊とはまた違った味を楽しめるようになったということですね。勉強にもなると思ったし、デヴィッドさんなら〈自分以上〉のものを引き出してくれると信じていたから。でも、100%憧れているデヴィッドさんのようなプロデューサーが見つからなかったら、またセルフ・プロデュースをする覚悟もありました」。
デヴィッド・ライアン・ハリスのどのような点を、彼女はそこまで信頼していたのだろうか。
「大学1年の時にデヴィッドさんの“For You”という曲を聴いて、ひとつでも良いからこんなに美しくてピュアな曲を書きたいと思ったことがありました。派手さはないけど、彼にしかできないサウンド。その1曲の深い印象でデヴィッドさんのセンスと価値観は信頼に足るものだとわかったんです。今回のアルバムはアコースティックな部分もありつつ、ギターやコーラスを足してリッチなものにしたいと思っていました。〈昨日〉にオマージュしつつ〈明日〉を予想するような、そんなサウンドにしたいと。彼ならそれが可能だとわかっていたし、ソングライティングの才能も尊敬していたので、すべての意味で良いマッチングだと思ってお願いしたんですよ」。
派手さはないけれど、個性とセンスがあって、深い印象を残すサウンド。それはまさにエミ・マイヤーらしさを表わすものでもあり、実際に作業を進めるなかで「すれ違いがあると感じたことは一度もなかった」そうだ。
「印象的なハプニングは“Doin' Great”を録音していたときのこと。録り終えたものを聴き返しながら、デヴィッドさんは〈う〜ん、良いアレンジだけど、あたりまえすぎる。最初から作り直そう〉って言ったんです。あたりまえ以上をめざしてくれている姿勢に感動しましたね」。
先にも書いた通り、今作で彼女はシンガーとしても新しい境地に立っている。歌の表情がグッと豊かになっているのだ。
「プロダクション全体にエネルギーを使わなくて済んだぶん、安心してヴォーカルに集中できました。それが良かったんでしょうね。歌を始めてからもう何年か経つので、自分の発声について以前よりよくわかってきたというのもありますけど……」。
バンド・サウンドと感情の動きが読み取れるヴォーカル、そして詞曲の理想的な合わさりにより、スケール感のようなものも伝わってくる。彼女の内的宇宙が実際の宇宙と繋がっている、そんな広がりをイメージさせたり……。
「タイトル〈Galaxy's Skirt〉のギャラクシーは宇宙なので、〈大きさ〉をイメージしていたところは確かにありましたね。大きな夢と心を持って、小さな心配事に囚われず、視野を広げようという気持ちをずっと持っていました。表題曲は世の中を恋人に例え、彼女のスカートをめくってドキドキしている……つまりそれくらい毎日を生きることに魅力を感じているという歌なんです。これを聴いてくれたことで皆さんのいろんな世界が広がっていったら、それは最高に嬉しいことですね」。
▼エミ・マイヤーの作品を紹介。
左から、2007年作『Curious Creature』(Indys/プランクトン)、2010年作『PASSPORT』、2011年作『Suitcase of Stones』、2012年のミニ・アルバム『LOL』(すべてプランクトン)
▼エミ・マイヤーの参加曲“Jamaica Song”を収録したCOOL WISE MANのベスト・アルバム『20th BEST SELECTION』(チューン・ベーカリー/GALACTIC)
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年04月19日 13:20
更新: 2013年04月19日 13:20
ソース: bounce 353号(2013年3月25日発行)
インタヴュー・文/内本順一