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インタビュー

羊毛とおはな 『LIVE IN LIVING '13』



結成10周年を迎えたデュオのライフワークとも言える、アコースティック・シリーズの最新作。そこには、表現力を磨いたからこその〈明る悲しい〉歌心が宿っていて……



羊毛とおはな_A



今年で結成10周年を迎えた、市川和則(ギター)と千葉はな(ヴォーカル)のアコースティック・デュオ、羊毛とおはな。2人が初作以来、ずっとリリースし続けている作品が〈LIVE IN LIVING〉シリーズだ。これは〈まるでリヴィング・ルームでライヴをしているような〉をテーマに、ギターと歌声を中心に生音でライヴ・レコーディングしたアルバムで、ここでは素顔の羊毛とおはなに出会うことができる。

「〈LIVE IN LIVING〉ではクォリティーよりリアリティーを重視してるんです。だから、ちょっとリズムが揺れたり、音程がズレたりしてもあまり直していない。それが人間らしさだって思うから」(千葉)。

シリーズ6枚目となる新作『LIVE IN LIVING' 13』も、いつも通りにシンプルな作り。2人の息遣いが伝わるナンバーが並ぶなか、異彩を放っているのがビョーク“Hyperballad”のカヴァーだ。テクノロジーを駆使したオリジナル曲が、ここでは無国籍のトラッド・ソングみたいな不思議な仕上がりになっている。

「すごく変わった曲なんです。普通は4小節ごとなんですけど、この曲は3小節のパターンで。メロディーがなかなか頭に入らなくて100回は聴きました」(千葉)。

「原曲は音が多いんですけど、今回はあまり増やしたくなくて。それでいて、ショボくならずにカヴァーするにはどうしようかとアレンジは悩みました。ギターも使ったことのない変則チューニングだったりして大変でしたね」(市川)。

同じカヴァー曲でもルイ・ジョーダンの“Choo Choo Ch'boogie”は、かつてジャズ・シンガーをめざしていた千葉のきっぷのいい歌い回しが雰囲気たっぷり。また“はだかのピエロ”は、「泣きそうになるほど悲しい曲だけど、あえて明るく歌った」(千葉)ことで曲に深いニュアンスが生まれている。そんななかで気になるのは、市川が作詞/作曲を手掛けた“ホワイト”だ。〈君の声は/いろんな花を咲かせているのです〉という歌詞は、市川から千葉へのメッセージのように思えたりして。

「去年の7月くらいに羊毛(市川)さんが作った曲なんですけど、当時は私が体調を崩して大変な時期で。この曲を持って、東京から私が住んでいる愛知まで夜行バスに乗って来てくれたんです。曲を練習しようって」(千葉)。

なんだかドラマティックな話ですね、と市川に話を振ると、「まあ、着いてすぐ漫喫に行きましたけどね(笑)。いつもおはなさんが東京まで来てリハしてるんですけど、僕が行っても同じことだと思って」と、照れ臭そうに語る。そんな市川にとって、千葉の歌声の魅力とはどんなところなのだろう?

「ただ明るいだけとか悲しいだけじゃない、〈明る悲しい〉みたいな、微妙なラインの歌い方ができるんですよ。曲を掴むと幅の広い解釈をしてくれる。その驚きがあるから、歌詞について訊かれたときも答えないようにしているんです。好きに想像してもらうように」(市川)。

曲に想像する余白を与えることの大切さは、千葉も感じていること。「ギターと歌だけのほうがバンドでやるより曲に余白があるから、聴いている人が好きな風景を描けるじゃないですか。だから私もアルバムではニュートラルな気持ちで歌っているんです。そのほうが聴く人が自由になれるから」と語る。だが、その一方で、しっかりと伝えたい思いもある。“うたの手紙~ありがとう~”は、今年3月の初めての台湾公演で、東日本大震災の義援金を送ってくれた台湾の人々に感謝の気持ちとして披露されたもの。同曲が期間限定で無料ダウンロードできるようになっていたのには理由がある。

「10年間、振り返らずに走ってきて。でも、この節目に振り返ったときに、出会ってきた人たちに〈ありがとう〉という気持ちを伝えたかったんです」(千葉)。

この10年で「上手く見せよう、カッコ良く見せようという気持ちがどんどんなくなってきた」という2人。このアルバムでは、そんな彼らの飾らない歌心が野に咲く花のように静かに寄り添っている。



▼羊毛とおはなが今回カヴァーしたアーティストの作品。

左から、ジョニ・ミッチェルの69年作『Clouds』(Reprise)、ルイ・ジョーダン・アンド・ヒズ・ティンパニー・ファイヴのベスト盤『Jukebox Hits Vol.1: 1942-1947』(Acrobat)、カーラ・ボノフの78年作『Restless Nights』(Columbia)、ビョークの95年作『Post』(One Little Indian)

 

▼関連盤を紹介。

左から、市川和則の2012年作『GREEN music CD+photo BOOK』、羊毛とおはなの2011年作『月見草』、同2010年作『LIVE IN LIVING '10』(すべてLiving Records Tokyo*)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年04月24日 18:01

更新: 2013年04月24日 18:01

ソース: bounce 354号(2013年4月25日発行)

インタヴュー・文/村尾泰郎

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